「12HG7/12GN7A」カテゴリーアーカイブ

12HG7/12GN7A はモノになるか? 試行錯誤編

実際に作り始めて、すぐに悩んだのは、G3/Shield 電極がふたつあること。先人の回路図に両方をアースするように書かれており、本作では、MTソケットの中心ピンをアースとして、そこから短距離で G3/Shield 電極をつなぐことにした。

まずは NFB をかけずに正弦波をいれてみたところ、盛大に発振していた。 発振周波数は 4MHz 程度。 前川さんの EL821 CasComp 単段差動プッシュプルアンプの解説に、「オペアンプの低い出力インピーダンスでグリッドを駆動するため、ミラー効果が生じない」とあることから、グリッドに発振止めをいれていなかった。 グリッドの発振止めをいれると、盛大な発振は止まるも、1MHz 帯での微弱な発振がみられた。 先人の 12GN7 CSPP アンプではプレートにフェライトビーズをいれていたことを思い出して、虎の子の「アモビーズ」をいれてみたところ、この発振も止まった。 ここでアナログディスカバリーで周波数特性を測定したら・・・

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驚くなかれ。 1MHz で ゲインが 0dB まで戻っているではないか。 アナログディスカバリのツールキットで調べてみると、3~4MHz で、3dB 程度のゲインがある。 このままでは、どう考えても NFB をかけるどころではない。 EL821 CasComp 単段差動プッシュプルアンプ で狭帯域出力トランスを使っていたのは、安定した NFB のためとのことであったのは、まさにこれが理由だ。

ここで、私が考えた対策は積分補正である。 プレート ー プレート間に CR をいれて帯域制限してみる試みだ。 2MHz で -3dB 程度あればいいだろうと考え、3kΩ – 22pF で試みたところ、周波数特性は次のようになった。

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見慣れた感じの周波数特性・位相特性になってきた。 これでいけるだろうか?

to be continued…

12HG7/12GN7A はモノになるか? 設計編

電源部はトランスを決めた時点で自動的に決まってしまう。 少しでも FET の発熱を抑えるために、高電圧整流ダイオードに少し抵抗を入れる。 手持ちのコンデンサが 220 μFと大きめであることもあって、ダイオード保護もできる。 整流直後のコンデンサは、105℃品を使う。 オペアンプ用のコンデンサが、KZH なのは手持ちの都合で、KMG でもよい。 リップルフィルタはぺるけ師匠の設計通りで、※の抵抗で250V となるように調整する。

C-電源は、差動定電流に LM317 を使うが、定電流性を示すには 4V 程度かける必要があるためだ。 ここには気休めかもしれないが、放熱に注意しながら 音響用の FineGold を使う。オペアンプの電源供給のフィルタには、いつものように KZ 電解コンデンサだ。 1000μFをいれたいところだが、高さの制限から 330μF となった。 なお、オペアンプの近傍には、いつものように、PILKOR フィルムコンデンサをパスコンでいれる。

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アンプ部は、とりあえず EL821 CasComp 単段差動プッシュプルアンプ 通りだが、オペアンプは LME49720 とする。 さてどうなることやら。

to be continued…

12HG7/12GN7A はモノになるか? 構想編

いろいろ調べていたら、ARITO’s Audio Lab前川有人さんのページで、EL821 CasComp 単段差動プッシュプルアンプ を見つけた。 EL821 も 12HG7/12GN7A と同様に映像出力管で、Gm は 11~13 mmhos である。

CasComp 回路については、前川さんの解説記事がある。 オペアンプと真空管などを使って、歪み打ち消しを行うものだ。 この回路を使って、単段差動プッシュプルアンプとすれば、前川さんによれば次の通り。

ACバランスのみならず、オペアンプの局部帰還によってDCバランスもほぼ完全に取れるという点と、同じ理由によってPSRR(電源に乗っているリップルなどのノイズを除去する割合)が非常に高いという点が、通常の差動プッシュプルアンプと比較して優れています。 引用元ページ

このことは、Gmが著しく高い 12HG7/12GN7A において、プッシュプル間のバランス調整が不要であることを意味しており、大変都合がよい。 よって、EL821 CasComp 単段差動プッシュプルアンプ を参考にして 12HG7/12GN7A のアンプを作ってみることに決めた。

EL821 のバイアス電圧はデータシートでは 4.5V ほどであるが、12HG7/12GN7A では 2V 弱だ。 よって、前川さんの作例と異なり、トランジスタの追加によるアレンジは不要であろう。 オペアンプには、ClassAA ミニワッター で素直な音質を披露した LME49720 を使うことにした。

12HG7/12GN7A のプレート損失は 10W であるが、スクリーン損失は電圧によって異なる。 データシートによれば、スクリーン電圧が165V以下なら 1W であるが、それ以上では減少し、330V ではゼロになってしまう。 三結にすることを考えると、プレート電圧を 250V とすれば、330V に対しておよそ 76% で、スクリーン損失を 0.75W 程度確保できる。  プレート+スクリーン損失が 10.75W といっても、小さな MT管に 10W もの損失をまかせると、著しく高温になることが予測されるので、8割として、プレート+スクリーン電流を 32mA 程度にしようと考えた。 出力トランスは、手持ちから Arito’s Audio Labo の DE-10K7W とすれば、出力はおおむね 5W となりよいだろう。

電源トランスは手持ちから、サンスイ P-20 を用いることとした。 このトランスは、210V 210mA なので、実使用時に 270V 程度の直流電圧となるであろう。 ぺるけ式のリップルフィルターで、20V 程度消費させることとして、2.5W を FET に消費させることになる。 この FET はぺるけ師匠が 6AH4GT全段差動アンプで行ったように、ヒートシンクをシャーシ上に浮かせて配置して、効率的に放熱できるようにすればいいだろう。

このトランスは、6.3V 3A、5.5V 0.7A が2回路あり、さらに5V 1.9Aが1回路ある。 5.5V – 6.3V – 6.3V – 5.5V とつなげば、12.6V のヒータ電圧と、オペアンプ用に 11.8V AC 2回路として使え、中点をアースにつなげることができる。 EL821 CasComp 単段差動プッシュプルアンプの解説に、EL821 CasComp 単段差動プッシュプルアンプの解説に、「オペアンプの-側の最大振幅の約半分」とのことなので、AC 11.8V 2回路からなら、十分な駆動電圧が確保できるだろう。 さらに、5V 1.9A を整流してー電源とすれば定電流回路に必要な電圧も確保できる。 なんと素晴らしい。

しかしながら、問題がないわけではない。 CasComp 単段差動プッシュプルアンプでは、出力インピータンスが著しく高いため、前川さんの 作例では、安定したNFB をかけるために、狭帯域の特製出力トランスを使用している。 私が使用するトランスは広帯域の出力トランスなので、うまくいくかどうか・・・

to be continued…

12HG7/12GN7A はモノになるか? 妄想編

ヤフオクで、12HG7/12GN7A が 10本セットで多数出品されていた。 10本セットだと、予備球も含めて購入できるので、食指が動く。 調べてみると、許容プレート損失は 10W と MT管としては高く、それなりの出力が期待できる。 しかし、この球の一番の特徴は、high Gm で、36 mmhos もある。 これは、高Gm出力管の代表選手である、6BQ5(EL84)が 10mmhos の3倍を超える数値である。 high Gm ということは、ドライブ電圧が著しく低いことを意味しており、データシートによれば、3Vp-p 程度で駆動できる。 これなら、オペアンプ直結でドライブすることさえ可能だ。 20本競り落とすつもりが、40本落札してしまったので、いくらでも作れる。

12HG7/12GN7A は映像用増幅管で、6CL6, 12BY7, 6GK6(10GK6)などの仲間がいる。 オーディオ出力管としても用いられることもあり、特に 6GK6(10GK6)は 6BQ5(EL34)のG3を分離し、シールドを付加した球なそうだ。 12HG7/12GN7A は 1960年代半ばに設計された・・・ということは、真空管の最後の世代でもある。 同世代として有名なオーディオ管は 6GW8 で、ぺるけ師匠が、「6GW8 の人気がいまひとつなのが面白くない」と述べていたのを思い出す。

もちろん、著しい high Gm管なので発振の可能性が高いことも問題になるし、少しのバイアス変動によって暴走する可能性が高いなど、設計と実装には細心の注意が必要になるだろう。 はたして、私の技量でなんとかなるのか?

ネットで調べてみると、12HG7強NFアンプ12HG7単段シングル無帰還アンプ12GN7 CSPP アンプ12HG7 4パラ強NFシングルアンプ が見つかってきた。 12GN7 CSPP アンプ以外は、自己バイアスで作成されており、12GN7 CSPP アンプ では、定電流回路を用いて暴走しないように工夫されていた。 すぐに考えつくのは、全段差動プッシュプルとするが、おのおのの真空管ごとに定電流回路をいれる作例(悪い子の6CK4アンプ)である。 このパターンでは、バイアス変動による暴走はないが、信号が2個の電解コンデンサを流れるという欠点が生じる。 もっとよいやり方はないだろうか?

to be continued…