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バランス入力 15W 全段差動アンプ・・・完成

ケースは LEAD MK-400 だが、足はタカチの アルミインシュレータ AFM44-20S に変えている。 (クリックで拡大)

完成して、Softone Model 7 と聞き比べてみると、確かに本機のほうが、音の粒立ちがよく、音数が多い感じはするが、親の欲目かもしれない。 真空管の差を出すという点では、むしろ Softone Model 7 に軍配が上がる。 バイアス調整が不要であり、手軽に真空管を変えて楽しめるという点では、Softone Model 7 の良さがあるといえる。

当初、ぺるけ師匠の作例である EL34 で鳴らし続ける予定であったが、EL34 だと、切り替え視聴で VFA-01 BTL アンプ と同じにしか聞こえなかった。 ちなみに雑音歪み率、周波数特性などの特性データは、KT88 とほとんど変わりがない。 いろいろ聴いてみて、もっともゴージャスで、低音から高音へのピラミッドがしっかりしている KT88 で常用することにした。

自分の耳が悪いのかもしれないが、ブラインド視聴であれば、本機とVFA-01 BTL アンプ とを聞き分ける自信がない。 切り替え視聴でよく聞き込むと、本機のほうが少し元気がよくて、 VFA-01 BTL アンプ のほうがしなやかな感じがするように思うのだが。

本機と 6G-A4全段作動 とを比べると、超低音の出方が本機のほうがあきらかに手上だ。 我が家のメインシステムは、Fostex CW-250A を左右別に2台使用しているので、この差がわかる。 CW-250A を使用しなければ差がわからないので、Arito’s Audio Lab の出力トランス DE-8K20W が優秀なのだと思われる。 6G-A4全段作動も同じトランスで、平衡型に作り直そう。

はらわた(クリックで拡大) ただし、LM334Zの制御抵抗を多回転半固定抵抗に変える前のもの

 

バランス入力 15W 全段差動アンプ・・・いろいろ最終チェック

発振対策を行った上で、ひととおり、各部をチェックしてみた。 ドライバ段が予想通りに増幅しているかとか。

オシロで確認してみると、先に下側がクリップしている。 どうやら動作電流が適当でないらしい。 LM334Z の制御抵抗を100Ωの半固定抵抗に変えて、オシロで確認しながら、上下同時にクリップするように調整した。 このときのカスコードトランジスタのコレクタの電圧は、両チャンネルともほぼ100Vであった。

出力段 KT88 で調整していたが、他の球に変えてみると、バランスがとれない場合もある。 ぺるけ師匠が、10k 二連ボリュームにしていたのは、調整域を広げるためであったことを思いだした。 近くで手に入るのは Aカーブしかないので、試してみようと思ったが、よく考えれば、10kΩのボリュームから Vc-(-3.0V)への抵抗を小さくすれば、調整域を広げられる。 10kΩから 3.3kΩとしたところ、すべての球で調整可能であった。

最終回路図(クリックで拡大)

両チャンネルとも、ひずみ率 5% での出力は、おおよそ14W で、ほぼ計算通りである。 雑音ひずみ率は、両チャンネルとも 0.002W ~ 4W まで 0.1%以下で、0.1W あたりは、0.015% 程度と極めて低歪みである。 残留雑音は、デジタルマルチメータ GwInstek GDM-8261A で測定して両チャンネルとも 0.10-0.12 mV 程度(A補正なし)である。  ダンピングファクターは、 両チャンネルとも 10.0(ON-OFF法)である。 クロストークは、左→右、右→左とも、10Hz ~ 30kHz で -82.5dB、100kHz にて -74.9 dB (1W出力時)であった。 正直、クロストーク特性については、ダミーロードの位置によって、10kHz 以上で測定値が変動する。 30kHz までは、残留雑音と変わらないことはわかっている。 100kHz については、えいやで測定した数字で本当はもっと低いかもしれない。

バランス入力 15W 全段差動アンプ・・・発振判明とその対策

これで完成だと思って、WaveGene/WaveSpectra を使って雑音歪み率特性を測定すると、1%以下に下がることはなかった。 これは発振だと思って、オシロでしっかり調べてみると・・・・やっぱり発振していた。 左右チャンネルとも、260kHz 2Vp-p 程度の発振が認められた。 6G-A4全段差動アンプのときも、発振で苦しめられたが、カスコードブートストラップ回路の宿命なのだろうか。

6G-A4全段差動アンプで苦戦したときの私と、今の私は同じではない。 フルバランス・フルディスクリートアンプの経験がある。 自分で対策を考えられそうだ。

今回採用した Arito’s Audio Lab の出力トランスは、周波数特性の実測データが公開されている。 下図は私のロットのデータである。 これをみると、発振周波数近くでは、位相特性が -130° 程度となっていることがわかる。 

Arito’s Lab より拝借した、私のシリアルナンバーのトランスの周波数特性(クリックで拡大)

ドライバ段の周波数特性は下図の通りであり、発振周波数近くでは、位相特性が -70° 程度になっていることがわかる。 これらが組み合わされれば、位相特性が -180°を超えることから、発振するのは当たり前といえる。

ドライバ段の周波数特性(クリックで拡大)

よって、この周波数でのドライバ段での利得を下げれば良い。 具体的には、2SK117 カスコードブートストラップ段の両プレート抵抗間に補正の CR をいれればよい。 この CR の決定方法については、VFA-01基板によるフルディスクリート・フルバランスアンプの作成の時にコメントしていただいた。 それには次のようにある。

たかじんさん Wrote:
個人的な感覚では、大雑把に負荷抵抗の1/10くらいの抵抗値を使っている場合は、たくさん補償していると思います。 1/2~1/3程度でしたら、わずかに味付けしているって感じです。 仕上がりゲインが低い場合はNFB量が多めになりますので、どうしても位相補償を沢山しなければいけなくなりますので、補償の大小がアンプ設計の優劣を決定するわけでもありません。

まずは実験。 両プレート抵抗間に負荷抵抗の1/10 である 4.7kΩ – 220pF(fc=153kHz)をいれてみた。 発振はきれいに止まるが、トータルの周波数特性はがたがた。 この手法で止まることさえわかれば、あとは、オシロをみながら、コンデンサを減らしてみるのみ。 68pF まで発振が止まっていた。 56pF ではときおり発振波形がみえており、47pF では発振が止まらない。

よって、4.7kΩ – 68pF(fc=497kHz)で周波数特性をとってみたところ、高域の -3dB は 100kHz とまずまずで、周波数特性上の暴れもない。 補正を少なくする意味で、10kΩ- 33pF(fc=482kHz)と比較したのが下図。 4.7kΩ – 68pF(fc=497kHz)のほうが、高域は素直だが、10kΩ- 33pF(fc=482kHz)のほうが、低域、高域ともに伸びている。 この傾向は左右チャンネルとも同じであった。

ブートストラップカスコード回路の両プレート間の 補正CR の検討(クリックで拡大)

上記のデータをみて、位相特性の変動周波数が高く、トランスそのものの周波数特性に近い 10kΩ- 33pF(fc=482kHz)の補正値を採用することとした。 わずかなピークが 100kHz にあるが、これは NFB抵抗に抱かせるコンデンサで補正していける。 たかじんさんのご教示に心から感謝申し上げたい。

左チャンネル: C-NFB の検討 (クリックで拡大)

さて、周波数特性をみながら、メインループNFBに抱かせるコンデンサ容量を検討したのが上図。 Cなしでは、100kHz にわずかなこぶがある。 C = 3.3pF では、わずかなこぶがなくなる。 C = 10pF では、より素直になるが、位相特性のあばれがひどくなる。 よって、3.3pF に決定した。 右チャンネルも同様であった(下図)。 両チャンネルとも、-3dB 落ちは 120kHz 程度であった。

右チャンネル: C-NFBの検討(クリックで拡大)

to be continued….

バランス入力 15W 全段差動アンプ・・・NFBをかけてみました

現段階での回路図は下の通り。 負帰還がたすきがけになるので注意が必要だ。

現段階での回路図(クリックで拡大)

負帰還抵抗として 68kΩを取り付け、ゲインが下がることを確認し、これでよいと思って周波数特性を測ったところ、波を打ってのたうちまくる理解できない特性であった。 オシロでみたところ 15kHz できれいに発振している。

負帰還が多すぎるためと考えて、負帰還抵抗を 100kΩとしたところ、オシロでの発振波形は消えた。 周波数特性でも波を打ってのたうちまくることはなくなり、補正コンデンサがない状態で150kHz に 3dB 程度のピークがある周波数特性であった。 このピークを取り去るために、負帰還抵抗に抱かせるコンデンサをいろいろ試したのが下図である。 6.8pF では 200 kHz にピークがあるが、10pFではこのピークが消える。 22pF まで増やすと、高域特性が悪化するので、10pF に決定した。

負帰還をかけた周波数特性(クリックで拡大)

これで完成だと思ったら大間違い・・・とわかるのはもうすぐ。

to be continued….

バランス入力 15W 全段差動アンプ・・・設計やりなおし

 今回は、Arito’s Lab のトランスを使っており、周波数特性が公開されている。 高域の伸びが悪いのは、もともとの設計の悪さに決まっている。

 まず、ドライバの周波数特性をはかってみたら・・・。 下のように、-3dB点が、20kHz 未満という悲惨な状況であることがわかった。 ぺるけ師匠も私も、周波数特性が一番狭いのが終段になるようにしている。 これは絶対にだめだ。

最初の設計におけるドライバ段の周波数特性(クリックで拡大)

ドライバ段の負荷抵抗が 47kΩなのに対して、後段のグリッド抵抗が 100kΩで負荷が重すぎるのであろう。 よく考えれば、カスコードブートストラップ回路での出力インピータンスは負荷抵抗と同じと考えて良いのだから、この結果は当然(^^;)

対策は 6G-A4全段差動アンプと同様にエミッタフォロワで受けて後段に渡すことだ。 すでに平ラグはいっぱいなので、平ラグをとめるネジ穴に 7P の立てラグをたてて利用することにした。 エミッタフォロワには 1mA 流した。 年末でパーツ屋が休みなので、200kΩ 1/4W を2本並列とした。 対策は効果があって、下のように、-3dB 点が 300KHz超のところになった。

エミッタフォロワ追加後の周波数特性(クリックで拡大)

後は負帰還抵抗を配線して、抵抗に抱かせるコンデンサの量を調節すればできあがりだろう。 無帰還で聞いても、結構いい感じ・・・

to be continued….

バランス入力 15W 全段差動アンプ・・・設計・試作編

 設計にあたり、終段の動作はぺるけ師匠の平衡型EL34全段差動アンプを踏襲した。 ぺるけ師匠の設計で1番端子がアースされていたのは、どうしてなのか最初わからなかったが、KT88/6550ではシールドであるためと思われる。 EL34などでは1番端子がG3なので、となりのカソードとつなぐつもりになっていた。  また、B型10kΩの二連ボリュームが手には入らなかったので、バイアスのかけかたは、6AQ5全段差動アンプと同じにした。

 ドライバは構想編で述べたように、6G-A4全段差動アンプと同様に、2SK117 のカスコードブートストラップによる。 終段と直結にしないので、カソードフォロワがなくてもいいだろうと考えた。
 電源トランスはぺるけ師匠の記事にある TANGO MX-280 で、オークションで購入したときにいっしょに売られていた MC-5-250 をチョークトランスとして利用する。 チョークトランスの直流抵抗が、ぺるけ師匠がモノラルアンプで使用したチョークトランスの倍以上で、電流も倍なので、電源電圧が10Vちょっと下がってしまう。 出力がやや小さくなるかもしれないが、まあいいだろう。 電源のコンデンサはぺるけ師匠の記事より耐電圧が高いものを選んだ。 500V 耐圧の電解コンデンサはなかなか手にはいらず、JJ製のブロックコンデンサとなった。

 以上から設計した回路は以下の通り。 出力管は、EL34 / KT88 / 6L6GC など互換性のある真空管がたくさんあるはず。

当初の設計図(クリックで拡大)

 最初に、定電流源を組み立て、実験用安定化電源で 120mA 流れるように抵抗値を調整した。 次にカスコードブートストラップに利用する手持ちの E-301 定電流ダイオードの電流値を測定し、LM334Z の制御抵抗値を調節して、2SK117 に流れる電流が 2.0mA になるようにした。 LM334Z の制御抵抗値は、抵抗をRset(Ω)、電流をIset(mA)とすると、Rset=70/Iset でよいとの記事があったが、おおよそということで、現物合わせの調整が必要であった。

 ここまでくれば、あとは組み立てるだけ。 今回はぺるけ師匠のように平ラグを利用してみたが、平ラグパズルは楽しい。 2SK117 はぺるけ師匠からの配布品を利用した。 2SK117のバランスを取るための半固定抵抗はなくてもよかったようだ。 2SC3209 のコレクタ間の電圧がゼロになるようにすればよいのだが、ほぼ中央でバランスした。

上記設計での周波数特性(クリックで拡大)

 とりあえず、無帰還で周波数特性を測定してみたら、上図の通り。 なんと高域の -3dB 点が 50kHz と驚くほど低い。 だめだ、こりゃ。

to be continued….