Thema über den Namen Abegg, für Klavier variiert (Op.1)

Robert Schumann の作品は、Op.1 から Op.23までピアノ曲が続きます。 そのトップバッターが、ABEGG 変奏曲です。 知人のピアニストの Meta Abegg の名前からきています。 名前の Meta を並べ替えた Tema は、くしくもイタリア語やラテン語では主題(Thema)を意味しています。 このようなアルファベットの並び替え(アナグラム)は、Robert Schumann が傾倒していた Jean Paul の常套手段であったそうです。 Jean Paul の本名は Johann Paul Friedrich Richte ですが、Jean-Jacques Rousseau へのあこがれから、Johann のフランス語読みに近い Jean とミドルネームの Paul を結びつけて筆名としたのがその例です。 この曲は、Mademoiselle Pauline Comtesse d’Abegg に献呈されましたが、後年に Clara が架空の人物であることを明らかにするまで、誰も気がつかなかったそうです。

この曲は、Thema(Animato)と Variationen I-III – Cantable – Finale alla Fantasia の5個の変奏から成り立っています。

譜例1 A-B-E-G-G のモティーフ
譜例2 G-G-E-B-A のモティーフ

最初の曲、Thema では、A-B-E-G-G のモチーフを一音あるいはニ音下げて反復するという単純な構成です(譜例1)。 

それに対する応答は、これまたモチーフをひっくり返した G-G-E-B-A という単純さ(譜例2)。 

それにもかかわらず、この Thema は、繊細なアルペジオなどの修飾によって、サロン的な上品さに富んだ曲になっています。

譜例1で示したモチーフは、Variation I 以降では、必ずしもそのままの形では出てきません。 例えば、Variation I では、最初の A-B だけが繰り返される形(まさに、回想と循環!)で出てきています。

Variation II や Finale の冒頭も同様になっています。 しかし、左手の伴奏の形で、A-B-E-G-G のモチーフが Variation I, III でも出てきますし、Cantabile や Finale では、移調した亜型の進行(譜例3)が出てきます。

譜例3 変形された A-B-E-G-G のモティーフ
譜例4 音が消えていく A-B-E-G-G のモティーフ

単純な A-B-E-G-G のモチーフだけで、これだけの曲になっていくこと自体が驚きですが、圧巻は譜例4に示すイメージでしょう。 和音からひとつずつ消えていく音が A-B-E-G-G になっています。 楽譜上では、A-B-E-G-G のイメージは鮮明ですが、この譜例4を聴いて A-B-E-G-G を聞き取るのは至難の技です。 スラーでつなげられている同音は、新たに打鍵されることはありませんが、アクセントがつけられています。 このアクセントは、実際に弾くことは出来ませんから、あくまで演奏者の心象として演奏されるべきものなのでしょう。 Robert Schumann って で述べたように、Robert Schumann にとって、ピアノ曲は、ピアノの音色で奏されるべき頭の中の曲なのです。 最初の作品番号がつけられた Op.1で、この特徴がが現れていると私は考えます。

譜例5 Variation II

譜例5は Variation II の冒頭です。 譜例1の左手が大きく変形されて、左手と右手の低音部に分けられています。 よく見るとリズム構成も変わっているのがわかります。

上記の変化は、譜例1 → Variation I(掲載せず) → 譜例5と少しずつ変形が進みますが、譜例5の Variation II のところで明確に変わったのが楽譜を見ていなくてもわかります。 逆に言うと、その変化が劇的に聞こえるように演奏することが求められるともいえます。 そのためには、譜例1の左手の刻みを正確に演奏した方がよい(テンポルバートなどをつけない)結果を生みます。 逆に言うと、譜例1でテンポを揺らした演奏をすると、Variation I – III を Frédéric Chopin 風に仕上げざるを得なくなって、楽譜上の指示が活かされていない結果になるようです。

現代ではストリーミングサービスがあるので、いろいろな演奏を試聴できるという恵まれた環境にあります。 私が聴いたなかなかだと思ったのは以下の通りです。

  • Clara Haskil
    少し録音が古いですが、リズムの変形やモティーフの繰り返しがきれいに聞こえている演奏です。
    特に譜例4の表現が素敵
  • Claudio Arrau
    少々無骨な演奏ですが、リズム感にあふれた演奏です。
  • Egon Petri
    Ferruccio Busoni の弟子です。 Clara Schumann と同時代のピアニストの歴史的な録音ですが、なかなかの演奏だと思います。
  • Daniel Brunner
    CD録音はなく、ストリーミングサービスのみとなっていますが、びっくりするほどのスピードで正確に演奏されています。

コメント