Messe für Soli, Chor und Orchester (Missa Sacra, Op.147)

ミサ曲とは、カトリック教会におけるミサ(感謝の祭儀)で演奏される声楽曲です。 ミサで唱えられることばは、日によって変わる固有文(Proprium)と変わらない通常文(Ordinarium)があり、ミサ曲は通常文を歌詞としています。 たくさんの作曲家がミサ曲を作曲していますが、歌詞は基本的に変わりません。 Johann Sebastian Bach, Franz Joseph Haydn にはじまり、Wolfgang Amadeus Mozart, Ludwig van Beethoven, 初期ロマン派なら Franz Peter Schubert、そして後期ロマン派では Anton Bruckner が有名です。

ミサ曲の構造は下記が基本ですが、本曲では、Credo と Sanctus との間に Offertorium (司祭がパンとブドウ酒をささげる。マリア礼賛の通常文からなる)が挿入されています。 この変更は、演奏会で演奏されることを考慮したためと言われています。

楽章名

1. Kyrie

2. Gloria

3. Gredo

4. Sanctus

5. Agnus Dei

意味

哀れみの賛歌

栄光の賛歌

信仰の告白

感謝の賛歌

平和の賛歌

音楽的な特徴

「主よ、憐れみたまえ」と繰り返す。 
静かで厳かな祈り。

神への賛美にはじまり、遅々たる神と主イエスへの祈りと懇願が続き、Amen で締めくくられる。

父なる神、子なる神(Christus)、清麗なる神、罪の許しと「復活と永遠の命」を信じます。

「Sanctus:聖なるかな」と「Benedictus:祝福あれ」とのセットと歌われる。

三位一体(父と子と精霊)を意味する「3回繰り返される」歌詞、「哀れみから平和へ」、「子羊」という比喩表現(Christusを意味する)が用いられる。

本曲は、ソプラノ・テノールバス独唱、混声合唱、オルガン、オーケストラと極めて大きな編成であり、ピアノ伴奏版、オルガン伴奏版の楽譜も残されています。 オーディオ的にはオルガンの聴き応えがあるので、どちらの版もおすすめです。

本曲は Düsseldorf 時代の作品です。 Robert Schumann はプロテスタントですが、Düsseldorf はカトリック中心の町でした。 よって、プロテスタント でありながら、Messe in h-Moll を作曲した Johann Sebastian Bach を範として、作られたのがこの作品ですが、生前には全曲の演奏もされず、出版も没後でした。 初演後も「典礼上の慣習に背いている(テキスト処理や構成が伝統的なカトリック・ミサと異なる)」「あまりにロマンティックすぎる」などの批判を浴びていたようです。 つまり教会音楽としては自由すぎ、演奏会用作品としては敬虔すぎると中途半端な位置づけをされてしまったようです。 Robert Schumann の愛好者なら、何も気にならないところですが・・・。

さて、後世に与えた影響として、本曲のフルスコアが Eduard Hanslic により Anton Bruckner に贈られたことをあげられます。 私はこの曲が Anton Bruckner: Messe Nr. 3 に影響しているように思います。 特に Messe Nr. 3 の Kyrie / Gloria におけける和音配置はよく似ています。 三和音を厚く積む/内性を充実させる/和声を長く保持する/合唱を器楽のように扱うといった点です。 和声の呼吸と和音の建築感覚が似ているといってもいいでしょう。 

私は Messe Nr. 3 を聞くまで、Anton Bruckner の作品を退屈としか感じていませんでした。 有名な音楽評価家の吉田秀和氏が、初めて Anton Bruckner の交響曲7番を聞いたときに、あまりにゆったりしたテンポと長大さに耐えかねて 第2楽章の途中で居眠りしてしまい、目が覚めたときもまだ同じ第2楽章であったという逸話は有名です。 私も Anton Bruckner の入門に最適とされる交響曲第4番「Die Romantische」を聞き通すことはできませんでした。 しかしながら、Messe Nr. 3 よりも後に作曲された交響曲第8番を聴いたところ、はじめて「急がず、焦らず、音が紡がれていくプロセスそのものを愛でる贅沢な時間」だと理解できました。

さて、おすすめの演奏は以下の通りです。

  • Wolfgang Sawallisch / Berliner Philharmoniker / Chor: Städtischer Musikverein zu Düsseldorf / Mitsuko Shirai (Sopran), Peter Seiffert (Tenor), Jan-Hendrik Rootering (Bass)
    オーケストラ版として、最も早くから流通した名盤です。 Live Recording で、劇的で白熱の演奏です。 合唱は Robert Schumann が音楽監督を務め、激しい葛藤と挫折を経験した因縁(笑)がある団体です。 白井光子さんによる Offertorium が白眉のできばえです。
  • Michel Corboz / Orquestra Gulbenkian / Coro GulbenkianOrquestra / Audrey Michael (Sopran), Markus Schäfer (Tenor), Michel Brodard (Bass)
    こちらもオーケストラ版ですが、Sawallisch 盤とはある意味で対照的な、おだやかな演奏です。 鋭い切れ込みではなくて、パステル調の溶けあいが魅力です。 合唱やオーケストラとが優しく語り合い、親密で温かい雰囲気がずっと続きます。
  • Rupert Huber / Stefan Johannes Bleicher / Chor: Südfunk-Chor Stuttgart/ Rosina Bacher (Sopran), Scot Weir (Tenor), Ernst-Wolfgang Lauer (Bass)
    オルガン伴奏版のなかで、私の愛聴盤です。 この録音の良さは、オルガン伴奏の素晴らしさです。 オルガンの揺るぎない伴奏を背景に、合唱の複雑な掛け合いや対位法に基づく音楽の構成に感銘を受けます。 静寂の中で深く心に染み入る、純度の高い演奏といってもいいでしょう。

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