Robert Schumann の指の故障と死因の謎(3)

3. 梅毒で説明できるのか?

最初に疑問点を列挙しなおしておきましょう。

  1. 指の故障は梅毒で説明できるのか?
  2. Robert の精神障害および死は梅毒で説明できるか?
  3. 聡明な Clara が、Robert が梅毒であることに気づかずに結婚したのでしょうか?
  4. 精神病院に入院中に、なぜ Clara は Robert を見舞わなかったのか?
  5. Robert が梅毒だったとして、Clara に感染しなかったのか?
  6. Clara が梅毒に感染していたとしても、Clara が長命だったことを説明できるのか?
  7. 子どもたちは梅毒から無事でいられるのか?

1. 指の故障は梅毒で説明できるのか?
Robert Schumann が生きた時代には、梅毒に対して水銀(Quecksilberchlorür)が治療に使われました。 慢性水銀中毒の症状としては、指のふるえや麻痺などが起こりえます。 

2. Robert の精神障害および死は梅毒で説明できるか?
進行麻痺は、主として 40 才代ないし 50 才代の患者にみられる。 発病は目立たず、行動・性格の変化が最初の症状として現れる。 過敏、集中力低下、記憶力低下、判断力低下、・・・中略・・・情緒不安定、無力感、抑うつ、および洞察力の欠落を伴う誇大妄想などもよくおこる症状だ。
病状が進行すると、・・・中略・・・筆跡は、通常震えて読めなくなる。脊髄癆(運動失調症)は、脊髄が侵された場合の症状で、身体の各部位の疼痛、麻痺や失調などがおこる。
神経梅毒は、死に至る病である。 進行麻痺や脊髄癆が進行すれば、食事を取ることはもちろん、動くことができなくなる。
上記の赤字で示した部分が、Robert の経過をよく説明しています。

3. 聡明な Clara が、Robert が梅毒であることに気づかずに結婚したのでしょうか?
指の故障が1831年で、Clara が Robert とお付き合いを始めたのは1835年です。 第2期までの経過はおおよそ2年ですので、Robert の梅毒はすでに第3期にはいっており、梅毒特有の症状はすでにありません。 よって、Clara は Robert の梅毒には気がつかずにいた可能性があります。

4. 精神病院に入院中に、なぜ Clara は Robert を見舞わなかったのか?

最近の研究では、(1) 主治医による厳格な面会禁止、(2) Robert 自身が Clara や子どもたちに危害を加えるかもしれないという恐怖感をいただいていた、(3) 生活と入院費を稼ぐために、Clara は過酷な演奏旅行を行わざるを得なかったことが理由として挙げられています。

5. Robert が梅毒だったとして、Clara に感染しなかったのか?
6. Clara が梅毒に感染していたとしても、Clara が長命だったことを説明できるのか?
先に示したように、Clara が Robert と知り合ったときには、第3期にはいっており、もはや他人への感染性はありません。 
また、感染していたとしても、おおむね3分の2の梅毒患者は何の症状もなく一生を過ごすことができるので、Clara が長命だったことの説明は十分につきます。

7. 子どもたちは梅毒から無事でいられるのか?
Clara が梅毒に感染していなければ(その可能性は高いのですが)子どもたちは無事です。
また、感染していたとしても「母親が梅毒だと、生まれてくる子供は、先天性梅毒にかかる可能性があります。・・・中略・・・先天性梅毒の子どもは、梅毒の母親から生まれた子どもの5%程度にしか見られません。 また、ほとんどの場合、一生を梅毒との共存状態で普通の生涯を送ることができます。」とありますので、子どもたちへの影響は少ないと思われます。


以上から、Robert の指の故障と死因に関する疑問は、残念ながら梅毒で全て説明できる可能性があります。 それを確かめるためには詳細な伝記を読むしか手がありません。 手元にある Robert の伝記は、薄っぺらなもの(150page 強)で、「神経梅毒にかかった」とそっけなく書いてあるだけです。 しかし、少なくとも、例の指を強化するための器械については触れられていないようです。 ここは、Clara の伝記などいろいろな本を探してみるしか手がありません。 私にしても、Robert が人生の後半を梅毒による精神障害の中で過ごしながら、曲を作り続けたなんて、信じたくありません。 しかし、真実はひとつだけのはず。 さっそく、Stern Verlag (Düesseldorf で一番大きな本屋さん)で探してみることにしました・・・。

コメント