Papillons (蝶々あるいはパピヨン、op. 2)は、op. 1 と同様に変奏曲の形をとっていて、テーマと 12 個の小曲からなっています。 この作品は、Robert Schumann自身が、Jean Paul の小説「Flegeljahre(生意気ざかり)」 の最終章にある舞踏会を例にとった注釈を加えています。 近年の研究では、もともと作曲されていたこの曲に、小説をあてはめ、終曲は小説から着想を得たとされているようです。



ユニゾンの序奏に引き続き、テーマとなる Motiv(譜例1の右手全て)が、最初にオクターブの連続で鳴り響き、同様な Motiv が繰り返します。 その後、シンコペーションのリズムの応答がみられます(譜例2)。
譜例2の最初の2小節はシンコペーションのリズム(赤丸で囲ってある)で、その後は普通のスラー(緑丸で囲ってある)であることに注意してください。 譜例2でのリズム感の変容が、シューマンらしいところだと思います。 譜例2の後には、テーマが再現して、第1曲が終わります。
譜例1の、Carnaval Op.9 第6曲 Florestan でも出てきて、楽譜にも記載があります。 19小節目で出てきますが、9小節目にも不完全な再現があります。
第2曲は一転して、豪快なアルペジオで始まり、軽快なリズムで終わります。 舞踏会の最初の軽い興奮を表しているのでしょうか。 第3曲で、舞踏会の暗転したかと思うと、第4曲では、娘たちの登場なのでしょうか。 明るく軽いリズムが登場します(譜例3)。

譜例3の赤丸で示すリズムは軽快ですが、意外に弾きにくく、油断するとうまく弾けずに崩れてしまい、曲の美しさが損なわれてしまいます。 こういった付点音符の使われかたは、Robert Schumannらしいリズムといえましょう。
以降、譜例では示しませんが、こういう弾きにくいところがたくさんで出てきます。 楽譜を見ながら聴いていれば、微妙なパッセージをごまかさずに弾いているかどうかが、演奏の良否を決めるポイントです。 名だたるピアニストでも全然だめというのがけっこうあります。 譜例3の緑丸で示したオクターブの弾き方も、考慮を要するところです。 あまり下のリズムが強調されすぎると、音の響きが粗雑になります。 かといって弱すぎると、リズム感がわからなくなってしまいます。 けっこう微妙な感じがしています。 私なんかではうまく弾けません。


舞踏会は、絶え間なく、時に明るく、時に優雅に、つなげられていきますが、クライマックスとなる終曲では、Robert Schumann らしいポリフォニーがはっきりわかります。 譜例5は、終曲の冒頭のファンファーレです。 譜例6に示すように、冒頭のファンファーレ(緑の下腺)が、最初の譜例1の Motiv(赤の下腺)と組み合わされています。 これらの掛け合いは、曲が終了するまで(具体的には、譜例7の直前まで)ずっと続きます。 私はこの部分がこの曲の最大の聴き所だと思います。 なぜなら、回想と循環だからです。 Papillons では、Thema über den Namen Abegg, für Klavier variiert(アベッグ変奏曲 Op.1)では、あまりはっきりしなかったポリフォニーの美(声部の組み合わせの妙)が提示されていると言えます。 初期の作品から後期の特徴が読み取れるのは、Robert Schumann を象徴する楽器が頭脳だからだと私は思っています。 ポリフォニーの美は、ここでは、譜例6に示した非常に単純な形で提示されていますが、Zwölf Sinfonische Etüden für Klavier(Op.13)や Kreisleriana(Op.16)では、より複雑かつ多声にわたるかたちに発展していきます。

Thema über den Namen Abegg, für Klavier variiert (Op.1) の最後に出てきた、音を抜いていくことで、その音をイメージする手法が、この曲の最後にも出てきます(譜例7)
親しみやすい曲であるだけにたくさんの素敵な録音があります。
- Susanne Grützmann
リズム感もポリフォニーの美も明確でおすすめです。 録音が新しいこともあって、譜例7の消えゆく和音の様子もよくわかります。 夫の Dieter Zechlin に師事しています。 - Wilhelm Kempff
小曲にも全力投球しているのがわかる好演です。 2回の録音(1952年の Decca 盤、1967年の DG 盤)があります。旧録は瑞々しさ、新録は色彩色豊かで、甲乙つけがたいです。 - Peter Rösel
Articulation の美しさでも聴かせる好演。 この曲だけですが、なんとなく Samson François の演奏の良さに似ているように思います。 Berlin Classics の CD集もおすすめです。 - Yves Nat
ロマンティックさがありながら、リズム感、ポリフォニーの美しさもわかる好演です。 私は LP で Robert Schumann 集を持っていますが、CD も復刻されています。 - Walter Klien
この方らしい端正な演奏です。 それだけにリズム感にあふれる好演だと思います。 - Youri Aleksandrovich Egorov
夭折のピアニストと知られる演奏家で Robert Schumann を得意としていました。 この演奏は、ポリフォニーの美しさがはっきりとわかる名演です。 - Peter Schmalfuss
気をつけないと ポリフォニーやリズムの美しさを聴き取れないのですが、雰囲気感があって、私が個人的に好きな演奏です。 - Ethella Chupryk
ウクライナの女流ピアニストです。 骨太なリズム骨格の上にポリフォニーの美しさを聞かせてくれる好演です。 今回のレビューまで知らなかったことを後悔しています。 - Lucy Parham
私の大好きなピアニストで、この曲でも過不足のない標準的な演奏を聴かせてくださいます。


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