ピアノの音色はタッチで変わるか(仙台シューマン協会 特別企画)

仙台シューマン協会 特別企画レクチャー&ミニコンサート(11/Oct/2026)に参加してきました。 まごの吹奏楽のコンサートでチラシをみつけて、調律師・小田島智氏によるレクチャー「ピアノの魅力 響きの舞台裏」がとても面白そうだと思ったから。

私自身はピアノの音色はタッチで変わるとずっと思っていましたが、物理学的にはそう簡単ではないという本を知っていました。吉川茂(著)「ピアノの音色はタッチで変わるか:楽器の中の物理学(日経サイエンス社, 1997)」によれば、まだ未解決の問題であるというのです。 

左図は同書からの引用で、打鍵によりハンマーが弦をたたくまでの時間やハンマーが弦をたたく速度は、打鍵の強さによって変わりますが、このキーとハンマーの関係は、ピアニストが弾こうが非ピアニストが弾こうがかわらないそうです。

なお、ピアノでは同じキーを素早く連打できますが、そのための機構が左下図のエスケープメカニズムによるそうです。 

いずれにせよ、タッチによる音の差を検出するには、同じ加速度で打鍵して、それでも音が変わることを証明しなければならないということで、まだ解明されていないというのが同書の骨子です。

一方、ピアノには、打鍵以外にも音を変える手法があります。 それはペダルです。 左から、Soft pedal、Sostenuto pedal、Damper pedal(Sustain pedal、Loud pedal とも)です。 Soft pedal では、アクション全体が右にずれます。 完全に踏み込むと3本の弦のうち2本に当たるようになります。 Damper pedal は、上図の Damper が動作しない・・・音が出っぱなしになるわけです。 Sostenuto pedal は Damper pedal の変形バージョンです。Damper pedal では、全ての鍵の Damper を開放しますが、Sostenuto pedal では打鍵した鍵のみ Damper を開放します。

さて、よく使われるのは、Damper pedal ですが、井上直幸(著)「ピアノ奏法(春秋社, 1998年)」によれば、Damper pedal だけで9種類の使い方があるそうです。 私は楽譜を見ながら曲を聴くことがありますが、Robert Schumann は Damper pedal ON/OFF を指定することがあり、この本を読んで、なるほどと思いながら聴いています。

さて本題に戻って、小田島智氏によるレクチャー「ピアノの魅力 響きの舞台裏」では、最初に小さなオルゴールを手に取って鳴らされました。 わずかな音しか聞こえません。 ところが、グランドピアノの響板にオルゴールを載せると、しっかり音が聞こえるではないですか。 

グランドピアノの構造(ヤマハのページから)

響板はチェンバロなどのピアノの前身楽器にもあったそうです。 現代のグランドピアノの響板の構造を発明したのは、Steinway & Sons の Paul Bilhuber なそうです。 響板の中心部を厚く、外周にいくほど薄く削るし、効率よく美しく響かせることが可能になったのだそうです。

次に、グランドピアノのアクション部分を実際に取り出した状態で、小田島智氏からお話がありました。 (1)打鍵のスピード、(2)腕、肘、手首などの使い方や、身体全体の重みをどのように指先へ乗せるかで、ハンマーの弦への当たり方が変わるのだそうです。 これらによって、ハンマーが木であるために「木がしなる」という表現をなさっていました。 定性的に理解できたのですが、先の本を読んでいた私は、定量的な研究があるのかが気になりました。 帰宅して調べてみると、立派な論文があることがわかりました(Motor origins of timbre in piano performance, 日本語解説はこちら https://doi.org/10.1073/pnas.2425073122)。 また、小型グランドピアノとフルコンサートグランドピアノでは鍵盤の長さが違うのだそうです。 フルコンサートグランドピアノでは、鍵盤が長いので、微妙な調節がしやすいそうです。

グランドピアノのアクション部分(30 kg ぐらいあるそうです)をピアノに戻し、屋根がない状態で、ピアノ演奏を聴くことになりました。 音の粒立ちはわかりますが、残響に乏しいギスギスした音でした。 屋根を取り付けると、いつものきれいな音になりました。 屋根の取り付けは3人がかりでした。 音を小さくするために、屋根を少しだけあける場合がありますが、響きがこもって音が汚くなるそうです。 実際、その場で比較試聴するとその通りでした。

次に、ピアノの位置を壇上で変えるという実験をしてくださいました。 ピアノの打鍵点を、ホールの左右中央に合わせるのが基本であるとのもとで、ホール中央から、ホールの奥に変えたり、ホールの上手(右手)に寄せてみたり、わざと前に出してみたり。 ホールの奥にすると響きが乏しく濁るようです。 また上手にすると、なんか変です。 グランドピアノの音は、弾き手から見て右前方に広がるそうです。 だから、上手に寄せると、ホールの響きを使えなくなってしまいます。 実際、ホールの左右の共鳴板を移動させ、音が乏しくなるのも体験させてもらえました。 一方、観客側に寄せるほうは、音の粒建ちがはっきりして(オーディオ的な表現だと音数が増えて)、ちょっといいかもと思いました。 これは協奏曲などでは、場所の制約でそうなることが多いけれど、利点もあるとのことでした。 ピアニストと調律師は、演奏する曲によって、ピアノの位置を決定するのだそうです。 キラキラした感じがほしい(Frederic Chopin, Claude Achille Debussy)では少し観客側に、いぶし銀の響きがほしい(Ludwig van Beethoven, Johannes Brahms)では少し奥に配置するのだそうです。 Robert Schumann の場合にはどうするのと質問すれば良かった。

最後に、Violin Sonata の場合に、どこに Violin / Piano を配置するのが良いのかという実験をなさいました。 最初の実験では、Piano Solo の定位置で、Violin がピアノの屋根の前という位置でしたが音がバラバラで聴いていられませんでした。 演奏する方も、お互いの音が全く聞こえないそうです。 次に、Violin がピアニストの前に来る形でしたが、これだと観客からピアニストが見えませんが、演奏する方は問題がないそうです。 音自体はきれいに聞こえます。 次に、Violin がピアニストの後ろ側に少しずれました。 私が聴いている分には問題がありませんが、ピアニストからバイオリニストが全く見えないため、弾きにくいそうです。 最終的には、ピアノを少し奥に設置し、バイオリニストがピアニストの前で演奏する形になりました。

仙台シューマン協会には、30年前には参加していましたが、あまりにも多忙で、今回の参加はおおよそ25年ぶりでした。 これからも楽しみにしたいと思います。

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