Studien und Konzertetüden nach Capricen von Paganini, Op. 3 & 10

Der Teufelsgeiger(悪魔と契約したヴィルトオーゾ)”という風評は、Niccolò Paganini の演奏家としての評価を高めることはあったかもしれませんが、作曲家としての才能を誤解させていたかもしれません。 Niccolò Paganini 詩的な作曲家でもあり、Virtuoser Geiger(Violinist)でもあるという、ふたつの才能をあわせもった人物であることを認めた、最初の音楽批評家が Robert Schumann であったように思われます。 Robert は次のように書き残しています。

Paganini ist der Wendepunkt der Virtuosität.
(パガニーニはヴィルトオーゾのターニングポイントであった。)

Niccolò Paganini にとって、作曲と演奏---すなわち、創造とその解釈というふたつの行為は不可分のものであったのでしょう。 そのためか、Johannes Brahms, Sergei Rachmaninovなど多数の作曲家が Paganini の主題を用いた曲を残していますが、最初に書いたのが、他ならぬ Robert Schumann だったわけです。
Robert が、Paganini のヴァイオリン演奏を聴いて、Virtuoser Pianist への道を歩もうとしたことはあまりにも有名ですが、彼の技巧的な作品を、ピアノ曲の世界に持ち込もうとしたのが、ここで紹介する練習曲です。

Niccolò Paganini (1782-1840)

Studien für das Pianoforte nach Capricen von Paganini(パガニーニの奇想曲の主題による練習曲、op. 3)および Sechs Konzertetüden nach Capricen von Paganini für Klavier (パガニーニの奇想曲の主題による6つの演奏会用練習曲、op. 10)は、名前の通り、いずれも、Niccolò Paganini 作曲の Caprices (Op. 1)から主題を得た作品になっており、対応は次の通りです。

Op.3Op.10
第1曲No. 5No. 14
第2曲No. 9No. 6
第3曲No. 11No. 10
第4曲No. 13No. 4
第5曲No. 19No. 2
第6曲No. 16No. 3

Studien für das Pianoforte nach Capricen von Paganini (op. 3) には、シューマン自身が、演奏の手引きを楽譜につけています。 ここに書かれているのは、ひとつひとつの音を同じ強さで同じように弾くことやリズムを大切に正確に弾くことなど、おろそかにはできない基本的なことが多数を占めています。 このことから、op. 3 の練習曲は、Czerny(チェルニー)の練習曲と同じ性格をもった、基本的な練習曲を念頭において作られたものと思われます。 しかし、その一方で、蝶々(Papillon, op. 2)の最終曲の終結部(譜例7)と同じような、スラーでつなげられた音が消えていくことで響きを変えていく手法についても言及があるあたりは、Robert らしいところです。 

一方、Sechs Konzertetüden nach Capricen von Paganini für Klavier (op. 10) のほうは、あくまで、演奏会用の作品として組み立てられています。 Paganini のヴィルトオーゾを生かす単旋律が、美しく飾られています。 しかし、ヴァイオリンとピアノとでは、表現技巧が大いに異なるためもあって、ヴァイオリンで演奏される Paganini 原曲では、ヴィルトオーゾらしく聞こえるテーマも、ピアノでは単調に聞こえてしまうところもあるようです。 当然のことながら、原曲のテーマには、シューマン特有のシンコペーションにあふれたリズムがありません。 その意味で、美しい旋律がありながらも、Robert らしい味わいに乏しいと感じる方も多いでしょうし、他のヴィルトオーゾ用のエチュード(例えば、Frederic Chopin のエチュードや Franz Lisztの超絶技巧練習曲)と比較して、ちょっとさびしい感じもします。 しかし、この曲の精神は、他の曲の中にとりこまれているように思えてなりません。 二本の手…すなわち 10 本の指で、白黒の鍵盤上で成し遂げられるポリフォニー、各種の装飾音への可能性の追求ということです。 Zwölf Sinfonische Etüden für Klavier(op. 13)やFantasie für Klavier(op. 17)Faschingsschwank aus Wien. Fantasiebilder für Klavier(op. 26)で、それを端的に感じるのは私だけでしょうか。

さて、Niccolò Paganini 作曲の Caprices (Op. 1) を編曲としては、Franz Liszt による Grandes études de Paganini, S.141 が有名です。 Caprices 第6曲が Robert Schumann の Op.10-2 / Liszt 第1曲、Caprices 第9曲が Schumann Op.3-2 / Liszt 第5曲 になっています。 聴いてみればすぐにわかりますが、Robert Schumann は Paganini の音楽の内面を模倣し、ポリフォニーや和声の豊かさで表現したのに対し、Franz Liszt は Paganini の Violin における超絶技巧を Piano に落とし込んだといえます。 このあたりは Robert & Clara Schumann 夫妻と Franz Liszt との微妙な関係を投影しているように思います。

かつては、この曲は Karl Engel や Jörg Demus の全集にしか含まれておらず、なかなか聴く機会に恵まれていませんでしたが、現在では各種の配信サービスにも含まれています。 手持ちでは、先の全周に加えて、Reine Gianoli、伊藤恵があります。 Amazon Music Unlimited だと、Karl Engel,Jörg Demus,Peter Frankl,Reine Gianoli が含まれていることを確認しました。 1枚選ぶなら、録音の良さで伊藤恵でしょうか。 演奏自体は、どの演奏も優れていると思います。


Paganini 24 Caprices, Piano accompaniment by Robert Schumann

Niccolò Paganini Caprices (Op.1) に、Robert Schumann がピアノ伴奏をつけています。 1855 年、Robertは、Endenich の精神病院(脳病院)に入院して、小康状態を得ていたころに、この曲の全ての楽譜を手に入れております。 そして、最後の 24 番(残念なことに、この最後の 24 番が最も有名な曲なのですが)を除く全ての曲に、伴奏をつけています。 幸いなことに、このピアノ伴奏付きのパガニーニの奇想曲は、Ingof Turban (Vn) / Giovannni Bra (Pf) で録音されています(Claves, CD50-9416、世界初録音)。 これを聴くと、Paganini のヴァイオリン弾き&作曲家としての非凡な才能と、それに共感して反応した Robert の情愛が浮かび上がってくるような気がします。 先の録音を含めて、各種の配信サービスでも聴けますので、お勧めします。

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