この曲は私にとって、とても思い出深い曲です。 FM放送でこの曲を聴いて、この曲を知りました。 クラシック音楽LP専門店の店主のおすすめで、Otto Klemperer の Robert Schumann 交響曲(LP2枚組)を買い、Robert Schumann の世界にのめりこむきっかけになったのです。
全楽章をひとつながりとして休みをおかず演奏され、また共通の動機による統一が図られているのが大きな特徴とされています。 先例としては、Ludwig van Beethoven の交響曲第5番「運命」の第3楽章から第4楽章へのつながり(attacca)があげられますが、全楽章をというのは、この曲が初めてかもしれません。 ただし、Robert Schumann は、Symphonistische Phantasie という題名を当初考えておおり、その理由が「全楽章を attacca でつなくこと」と「同じメロディが何度も現れる循環形式」にあります。

第1楽章冒頭の左図のメロディは、第2楽章で冒頭のオーボエとチェロによる優美な旋律の後に、ほぼそのままの形で現れます。

上に示す旋律は、第1楽章の第1主題は、この楽章の中で何回繰り返されることでしょうか。 半音階的に変更されたものをいれると、数え切れないほどです。 この主題は、第4楽章の提示部でも繰り返されます。

左に示す Motiv は第1楽章の後半で何度も繰り返しあらわれて、第1楽章をまとめあげます。

左に示すスコアは、第1-2小節は木管楽器によって、3対1の付点リズムが提示され、第3小節のストリングスが、第1主題の変形になっています。 これらの掛け合いは、第1楽章でも何度も耳にしますが、この掛け合いが結実するのは第4楽章です。
第2楽章 Romanza は、オーボエとチェロによる美しい旋律で始まります。 続いて第1楽章序奏部(譜例1)が再現され、既視感を覚えます。
そののちに現れるのが、バイオリン独奏による流麗な旋律(譜例5)です。

この楽章は、第2楽章冒頭に流れた、オーボエとチェロによる美しい旋律を再現して終わります。



第3楽章冒頭(譜例6)は、よく見ると譜例1の第1楽章冒頭部の反行形(赤線で図示)になっています。 よくこんな工夫をするのだなと驚きました。
第3楽章のトリオ(譜例7)では、また流麗はバイオリンオブリガートが流れますが、これは第2楽章の中間部(譜例5)の発展形になっています。


第4楽章はゆっくりした速度で始まります。 ここでは、第1楽章の第1主題(譜例2)のMotiv が何度も再現されます。 トロンボーンが効果的に用いられて、響きが厚くなり、盛り上がりを見せます。 ミサ曲のような神の祝福を象徴しているように感じられるのは気のせいでしょうか。 提示部では、第1楽章の第1主題の Motiv(譜例2)と展開部の付点リズム(譜例4)が重ね合わされてあらわれます。
以上、説明してきたように、第1楽章であらわれたさまざまな Motiv が、形を変えつつ、最後まで繰り返されるのがこの曲の特徴といえます。 Arnold Franz Walter Schönberg が発展的変奏(developing variation)と称した手法の先駆けであると、考えています。
この曲は、1841年に初稿が書かれ、51年に改訂されています。 スコアを眺めながら聴くRobert Schumann の交響曲の項で示したように、演奏のしやすさへの配慮がが改訂の主たる理由です。 下図は第一楽章の Thema で、左側が1841年初稿、右側が1851年改訂です。 初稿では第1バイオリンのメロディを補完していますが、どの楽器がミスをしても不協和音がはっきりわかってしまいます。 改訂版ではフルートとオーボエを第1バイオリンのメロディに重ねて、メロディの音量を大きくし、ミスした際の不協和音がめたちにくくした上に、楽器を重ねたことによるいぶし銀の響きを狙っているように思います。


「1841年初稿版と1851年改訂版のどちらが優れているか?」なんて、野暮はいいません。 せっかく二つのバージョンがあるのだから、両方楽しめたらと思うのです。 ただし、1841年初稿版のほうが、圧倒的に演奏の欠点がわかりやすいとは思います。 このほか、有名どころでは、Gustav Mahler 編曲盤が有名ですが、対位法的な理解(メロディの掛け合い)を理解する上では、とても役立ちます。 ただし、私自身の好みは圧倒的に Robert Schumann のオリジナル版です。
さて、おすすめの演奏ですが、最初に聴いた Otto Klemperer を改めて聴いてみると、テンポがおそめであり、楽譜に忠実な演奏であるように思いました。 バイオリンが対向配置であることもなかなか良いです。 Klemperer 節と書いている解説もあったりして、ちょっと意外でした。
- Wolfgang Sawallisch / Staatskapelle Dresden 1851年版のスタンダードと言える演奏だと思います。 本ページで触れた内容がよくわかる演奏です。 ただし、CD/配信サービスともに、オーディオ的には録音(リマスター)がいまひとつで、LPでないと満足できないとおっしゃる方もいらっしゃることでしょう。
- George Szell / The Cleveland Orchestra Sawallisch 盤とは異なる美しさです。 楽譜通りの演奏なのはどちらにもいえますが、Sawallisch 盤はドイツ系のオーケストラの響きを活かした演奏に対して、Szell 盤は、細かな旋律の正確さ、緻密さを活かした演奏です。 Szell の演奏を無機質とみる向きもあるようですが、私は精密さを高く評価したいと思います。
- Christian Thielemann / Staatskapelle Dresden Otto Klempeler のように、テンポを落として正確に構造をあらわそうとした演奏です。 Staatskapelle Dresden の良さもでており、録音がよい演奏をとお考えの方は、こちらがいいでしょう。
- Jan Willem de Vriend / Stavanger Symphony Orchestra こちらは 1851年版 でモダン楽器・ピリオド奏法を取り入れ、見通しが良い上に音の粒立ちがすぐれた演奏です。 対位法の正確な構造がわかる上に、軽快な響きで聴けます。
- John Eliot Gardiner / Orchestre Révolutionnaire et Romantique 1841年版をピリオド楽器で演奏した好演です。 この録音では、1851年版も演奏しており、待避も含めて楽しめます。 先に述べたとおり、1841年版はちょっとしたミスが曲を台無しにしてしまう側面がありますが、この録音は素晴らしいできばえです。 モダン楽器による London Symphony Orchestra での録音もありますが、こちらは、Multi-ch SACD もあり、おすすめです。
おまけ: YOUTUBE に Robert Schumann のオーケストレーションに関する記事があり、Ilyich Tchaikovsky が Robert のオーケストレーションを稚拙と考えていたことを知りました。 画家の言葉で言えば「色彩の欠如」なそうです。 楽器の音が混じり合って作品を台無しにしていると。 単に求めている音楽が異なるのだと私は理解しています。 バレエ音楽の芸術化をもたらした Tchaikovsky らしいと思いました。 なお、そのような方向の編曲版も試聴しましたが、もはや Robert Schumann の良さは消え失せていました。


コメント