Robert Schumann の指の故障と死因の謎(1)

1. 疑問の数々・・・

1998年のこと、「Robert Schumann の生涯」の記事を作成していて、いくつかの疑問が浮かんできました。 最初の疑問は、「1831年:右第2・3指の障害に気づき、治療を試みるがことごとく失敗する。この指の機能障害は、(1) 進行性梅毒の初期症状 (2) 指の強化のために用いた器具による障害
などの説がある。」のところです。 

不思議に思ったのは右第2・3指という点です。 ピアニストが、自分の思うとおりに指が動かなくて困るのは、通常、左第4・5指です。 実際、思い通りに指を動かすため練習曲集がいくつも存在します。 私は、自分が寝ぼけて変な訳をつけたのかと思って、Günther Spies / Reclams Musikführer – Robert Schumann を見直しましたが、確かに左手ではなく、右の第2・3指と書いてあります。

また、Robert は、1854年にライン川に投身自殺を図りますが、幸い救出されます。 そのまま精神病院に入院し、一度も退院することは、ありませんでした。 経過中、何度か危篤状態に陥ることがありましたが、Clara は面会に行かなかったそうです。 およそ2年間の入院生活の中で、Clara が Robert を見舞ったのは、臨終間際( 2 日前)の 1 回だけだったそうです。 Brahms を初めとした友人たちでさえ、瀕回に見舞っているにもかかわらず。 結婚に至る熱愛や、その後の 14 年間に 8 人の子供をもうけていて( 10 妊 8 産 とのこと)、 なぜ Clara は Robert に会いに行かなかったでしょうか? かいがいしく看病しそうな気がしませんか?

さらに疑問は深まります。 自殺未遂を計って、身体が衰弱したとはいえ、精神障害が原因で、人間が死ぬことがあるのでしょうか? こうみえても n’Guin は(ヤブですけど)医者ですから、一通りのことは勉強させられています。 もちろん、うつ病などの回復期に発作的に自殺することはありますが、Robert の場合は、全身が次第に麻痺していき、死に至っています。 このような死に至る経過は、統合失調症や躁うつ病といった精神障害ではなくて、何らかの身体的疾患によって引き起こされたと考えるのが自然です。 そう考えると、精神障害はその身体的疾患による症状を思わせます。

ここまできて、最初の疑問がふと頭をよぎりました。 指の障害に始まり、精神症状がでてきて、さらに死に至る病 — 梅毒 — の可能性です。 n’Guin は小児科医なので、特殊なタイプの梅毒(先天性梅毒)しか、実際には診たことがありません。 しかし、確かに、Robert の全ての症状を梅毒というひとつの病気で説明できる可能性があります。

しかし、全てを梅毒ということで説明できることなのでしょうか? 皆さんご存じのように、梅毒は、性行為感染症です。 この病気は、かなり特徴的な発疹(おできの親玉と思えばいい)を出すので、比較的容易に回りからうかがい知ることができます。 Robert が、指の障害を呈したのが、1831 年で、Clara と結婚したのは、1840 年です。 聡明な女性 Clara が、それに気がつかずに結婚したのでしょうか?

また、Robert が梅毒であれば、Clara に感染していたと考えたくなります。 もしそれが本当なら、なぜ Clara は長生きできたのでしょうか? 梅毒は、垂直感染(母から子へ感染すること)の可能性がありますから、どもたちはどうなのでしょうか? 疑問は広がる一方です。

現代においては、梅毒はRobert が生きていた時代のような難病ではありません。 抗生物質の投与で、容易に治療できる病気です。 おそらく、現代の日本で、Robert のような患者に出会うことはないでしょう。 今まで書いてきたような疑問を解決するためには、梅毒という病気を無治療で放置した場合の経過(Natural Course)を知る必要があります。 私の頭の中には、そんな知識はありません。 梅毒の古い文献を探す旅に出る必要があるようです。

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