Sinfonische Etden, Op. 13 (98/7/9 記)
 

Sinfonische Etden (交響的練習曲、op. 13)は、R. Schumann の初期のピアノ曲の中でも、代表作のひとつと言える大作です。  テーマと 12 個の小曲からなっています。

  1. Thema
  2. Etde I (Variation I)
  3. Etde II (Variation II)
  4. Etde III
  5. Etde IV (Variation III)
  6. Etde V (Variation IV)
  7. Etde VI (Variation V)
  8. Etde VII (Variation VI)
  9. Etde VIII (Variation VII)
  10. Etde IX
  11. Etde X (Variation VIII)
  12. Etde XI (Variation IX)
  13. Etde XII (Finale)

聴いた感じだと、Liszt や Chopin などに比べてテクニカルに難しい曲という感じがしないかもしれませんが、弾く側にとっては、非常に難易度が高い曲です。 そんなことはないとお感じの方は、是非とも楽譜を御一読ください。 それでもやさしい曲とおっしゃる方は、既に超一流のピアニストでいらっしゃるに違いない(笑)。

エルネスティーネ (9KB)

この曲の主題は、シューマン自身によるものではなく、シューマンの初恋の人とされるエルネシティーネ(上の絵の女性です。 時期については、年譜をごらんください。)の父、フリッケン男爵によるものです。 私が初めてこの曲を聴いたときには、連続した小曲で構築された大作のように感じました。 そんなわけで、変奏曲というイメージに乏しい感じがして、楽譜を見て Variationen (変奏)と書かれていて、意外に感じました。 さらに、楽譜を読んでみて、伴奏となる部分などに、主題のテーマが隠れていたりして、さらに驚いたものです。 変奏曲といえば、ちょっと聞いただけでも、主題のテーマがどう変容されているかがわかる(例えば、Mozart のキラキラ星変奏曲(Ah, vois dirai-je Maman, K. 265)なんかをイメージしてください)ものだと思っていた私には、ちょっとした衝撃でした。

Symphonische Et&uumlden VaThema (4 K)

上の楽譜は、Thema の最初の部分です。 この Thema の主題となるモチーフは、赤まるで囲んだ Cis - Gis - E - Cis の単純な進行なのですが、このモチーフは、以降の Variation には、必ず、何らかの形で出てきます。 中には、伴奏(左手)に紛れ込んだり(Etde IV (Variation III)の場合)、各小節の冒頭音の一部に紛れ込んでいて(Etde V (Variation IV)や Etde VIII (Variation VII) の場合)、どこにこのモチーフがあるのか、わかりにくいものがあります。 しかし、わかりにくいながらも、このモチーフは、演奏上は大切な和声を構成していますので、楽譜を見ながら、探し出してみてください。

もうひとつ、シューマンらしいのは、リズム構成です。 『 8分音符−16分休符をはさんで−16分音符 』というリズム構成が、倍以上に引き伸ばされたり、縮められたりして各所に出てきます。  このリズムは、Etde I (Variation I) の冒頭で初めて顔を見せますが、あらゆるところで、ひょこひょこと顔をみせます。 中には、ある声部で、先のリズムが変則的に登場し、その上に他の和声で三連符の山が刻まれていたりします。 こんなのを、正確に弾ける人なんているんでしょうかねぇ。 私なんかだと、到底無理ですね。 ところが、この微妙なリズムが、この曲の魅力のひとつなので、曲を弾くほうにとっては大変な難かしいところ、聞き手にとっては聴きどころということになります。

ところで、この曲の全体としての統一感(あるいは、緊張感の連続性といってもいいかもしれません)の強さはいかがでしょうか。 どなたもお感じの通り、非常に強いものがあると思います。 調性という点から見ると、テーマから Etde X (Variation VIII) までを、全て嬰ハ短調で統一し、Etde XI (Variation IX) で嬰ト短調に転じて、踏み台とし、Etde XII (Finale) では、嬰ハの同音異名の変ニ長調で、ついに喜びに満ちた長調を鳴り響かせています。 この Schumann らしい手法は、短調で、長いことかかって、苦悩に満ちた情感を内に秘めて熟成させ、膨らませ、最後の Etde XII (Finale) で、それまでの暗い情熱を喜びの賛歌に置き換えて爆発させているように思います。 Marcel Beaufils は、La musique pour piano de Schumann (小坂裕子・小場瀬淳子 共訳、音楽之友社)のなかで、この展開のさせ方が Beethoven 的であると考え、この曲を Beethoven の第9交響曲にたとえています。

ところで、当初、この曲は、現在では遺作として知られている5曲が、中間部にはさまれていました。 LP/CD によっては、これらの遺作も演奏している録音が少なくないようです。 Schumann は、後日、これらの5曲を取り除いてしまったわけです。 先の Marcel Beaufils は、遺作の5曲の不要論を唱えておりました。 私も、これらの5曲がはいっている演奏を聞いていて、付け足しというか、不要な曲であると思うこともあります。 しかし、遺作の曲自体の美しさを感じることがあるのも事実だと思います。 私の意見としては、演奏者が、交響的練習曲全体を、どのようにまとめようとしているかで、遺作の5曲に対する印象が変わってくるように思います。 終曲にむけて、盛り上げていこうとする演奏では、遺作の5曲は不要だと感じます。 また、先に上げたリズム感覚を大切にしている場合も、遺作の5曲は、曲を台無しにしてしまうように思います。 一方、淡々と Schumann のらしい、声部の重なった和声の妙を浮き出しにしようとしている演奏では、遺作の5曲も、良い曲だと思います。 このことは、演奏者の解釈の自由度が大きい曲だとも言えるのでしょう。

お勧めの曲・子供の情景で、私の最低のチェックポイントは、リズムが崩れていないことと、ペダルで音がにごらないことだと申し上げました。 しかし、この曲は、あまりにも難しい。 複雑なリズム構成と弾きにくさのため、完璧さを求めることは、不可能でしょう。 リズムが崩れていないというポイントだけで評価すると、ポリーニの録音が頭に浮かびます。 しかし、この録音は、過度のペダルの使用のために音がにごってしまい、Schumann らしい音のテクスチャが得られていないという印象をぬぐいきれません。

さて、お勧めの演奏ですが・・・。
私の好みのなかでは、舘野 泉 の演奏(CD: Pony Canyon PCCL-00298)がお勧めの一枚です。 遺作も入っています。 この録音は、シューマネスクな多声の融和の美しさにあふれています。 まれに音が流れてしまうことを除けば、テクニカルな面での崩れもなく、ペダルの使い方も的確だと思います。 若干、録音が古くなりますが、イブ ナット の演奏(手持ちは LP ですが、CD もでています)もすばらしい。 舘野 泉とは異なり、一音一音を大切にした演奏で、明確なピアノの響きの美しさを評価したいと思います。 オリジナルの楽譜の指示を大切にした演奏だと思います。 カール エンゲル の録音(手持ちは LP です。)も捨てがたいものがあります。 この演奏は、どちらかというと教科書的な演奏で、面白みに欠けるという評価がくだされることもありますが、楽譜を読みながら聴くと、その良さがじわじわとわかってきます。 ピアノ弾き向けの録音かもしれません。

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