真空管な日々(その1) (98/3/8 記)
 

さて、自分用にどんな真空管アンプを作るか? 楽しくも苦痛の時(生みの苦しみ?)が始まる。 6R-A8 シングルが良かったから、やっぱり三極管のシングルアンプがいいか? それともプッシュプル??? 何より、経済力のない学生の私にも作れるアンプを考えなければ。 真空管の規格表を見ながら、ファイナルに何を使うか・・・そればかり考えていた。

最初に思ったのは、6CA7(EL34) や 6V6、6F6 の三結だ。 比較的タフで、真空管の入手にも苦労がない。 ところが、6V6 や 6F6 では、1ワット程度の出力を得ることさえできない。 いくらなんでも、低出力過ぎるので、ボツ。 後になって試してみて、0.5 ワットだろうが、使いようによっては十分なのを知ったが、当時は、そんなことを知るよしもない。 6CA7(EL34) の三結シングルで決まりだ!

そんなおりに、中学校の時の例の同級生(「目覚めのころ」参照)に、街でたまたま出会った。 彼は、既に、真空管などの電気工作の趣味からは足を洗っていた。 しかし、6R-A8 シングルアンプの話をしたところ、彼は、私が 6G-A4 を持っていたと言い出した。 中学生のころ、彼は多極管派で、私は三極管派だった。 はるかかなた昔、三極管・多極管論争というのがあったことを覚えていらっしゃる方もいるだろう。 多極管は、三極管の能率の悪さを補うために開発されてきた真空管だ。 したがって、真空管のプレート損失(Pw)に対する出力は、多極管の方が圧倒的によい。 しかし、三極管の方が、能率は悪いものの音質が良いとする議論があった。 三極管の歪みは、主として二次、四次などの偶数次ひずみで、これらは何故か人間の耳には、あまり歪みとして感じられない。 加えて、プッシュプル出力段では、偶数次歪みは、キャンセルされ得る。 それに対して、多極管の歪みは、三次、五次といった奇数次歪みが主体で、これらの歪みは、数字上の歪み率が小さくとも、耳障りに聞こえる・・・ いや、歪みは、NFB で補正されるから、そんなことは関係ない・・・といった議論だ。 こんな議論は、1960 年代ぐらいには、大論争だったらしい。 生意気な中学生だった私たちは、大人ぶってそんな議論を飽きることもなく、続けていたのであった。

6G-A4
6G-A4 東芝製

そんな議論の果て、彼は 6BQ5(EL84)を購入し、私は 6G-A4 を購入したのだという。 私は、とうにそんなことは忘れていた。 そうだった。 私の部屋のどこかに 6G-A4 が眠っているはずだ。 ジャンク入れの奥底に、6G-A4 の新品2ペアが眠っていた。 1本 715 円で、ペアで 1430 円の札がはってあった。 おりしも、そのころ、仙台では数少ないパーツ屋さんが店仕舞いするという。 私が、6G-A4 を買った店だ。 私が、6G-A4 を買ったときには、確か、一本ずつ(ペアではないという意味)の 6G-A4 が2本あったはずだ。 もしかすると、売れ残っているかも・・・ と思って行ってみると、6G-A4 は、2本とも、私を待っていてくれた(8年ぶりの再会!)。 売れ残りではあったが、定価販売(1本 715 円)だった。 「けち!」と思ったものだが、その当時でさえ、秋葉原価格は一桁違っていたようだ。

こんな具合で、私の真空管アンプのファイナルは、6G-A4 に決まった。 まずは、シングルアンプである。 どうせ、A級アンプなのだからと、固定バイアスにする意味はないと単純に考えて、自己バイアス方式。 もちろん、そんな単純なものではないことは、多数の作例から後で知ることになる。 若干迷うのは、出力トランスだ。 タンゴの FW-20S あるいは U-808、 U-608、そして、6R-A8 シングルでも使われた H-5S と、よりどりみどりだ。 低域の余裕を考えれば、重くて、一次インダクタンスが大きい方がいいだろうという単純な考えから、U-808 にした。 ここまでくれば、後は、ドライブ回路だけだ。 自己バイアスなので、A2 ドライブを望んでいるわけではない。 単純に増幅すればいいや・・・ なんて思っていた。 ところが、6G-A4 は三極管としては高感度ではあるが、多極管ほどの高感度ではない。 一段増幅だと、初段に五極管を持ってくるのが簡単だが、ミラー効果の影響で高域が犠牲になる可能性が・・・。 (陰の声: 技術的な問題があるのは確かだが、それ以上に、純三極管アンプに五極管を使うのに心理的な抵抗があっただけ) 多段アンプになると、NFB をかけると、高域で位相回転が起こったときに、十分なスタガー比がとれていないと、アンプが不安定に・・・(陰の声: 発振した場合、きちんと対応できる腕がないだけ)などなどと考えて、SRPP 回路を利用することにした。 これだと、三極管だけでも、まずまずのゲインと低インピータンスドライブが可能だ。 昔から、三極管のドライブは低μの三極管を使えといわれているが、SRPP なら問題ないと思った次第だ。 さて、うまくできあがったかな・・・

(to be continued...)

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