真空管アンプとの出会い (98/3/1 記)
 

大学受験の失敗もあって、部品集めだけの日々が続いたが、予備校からの帰り道、面白いジャンク屋を見つけた。 真空管がたくさんあった。 昔の友人が真空管のラジオをつくっていたこともあって、けっこう顔なじみの真空管があった。 当初、購入するつもりはなかったが、あまりに安い(今にして思えば、値段相応の品質)と思い、6C6, 42, 76 などの ST 管や 12AX7, 12AU7, 12AT7 などの MT 管 などを買いあさった。 段間トランスのジャンクや、大容量のオイルコンなどもあったので、それらもいっしょに買い込んだ。 私の家には、古い SP 盤もあったので、いつの日か、それらの真空管で SP 盤専用のシステムを作るのも面白いだろうと思ったのだ。 骨董趣味的な感覚である。 その真空管を、いずれは、メインシステムで使うことになるなんて、全く思いもしなかった。

小出力ながら、金田式アンプを手にした私は得意満面だった。 数少ないオーディオ仲間のところに、持ち込んでは試聴してもらったものだ。 とある友人は、その親父さんの Altec A-7 を使っていたので、さっそく、自慢の金田式アンプを持ち込んだ。 ところが、「確かにいい音なんだけど、楽しくない。 スィングできない。」といわれた。 当初は、彼が言っている言葉の意味が理解できなかった。 単なるやっかみに違いないと思ったものだ。

その後、ボランティア先で、ひょんなことから、真空管アンプの製作を手伝うことになった。 モダンジャズをこよなく愛していたT氏は、既に手先の自由が利かず、真空管アンプの部品を長いこと死蔵していた。 それを組み立てようというわけだ。 12AX7A - 6R-A8 シングルというシンプルなものである。 出力トランスは、タンゴの H-5S。 小さなトランスではあるが、古くから定評のあるものだ。 電源トランスの関係から、自己バイアスとした。 T氏は、当初、某雑誌のデッドコピーをするつもりであったようだが、6R-A8 のプレート損失が定格をオーバーする設計(?)だったので、私が設計し直した。 出力 2.5 W を目標にして、プレート損失は定格の 80 % 程度に押さえた。 NFB も 6 dB 程度かけた。 ボランティア先にいる時間だけでは、とても足らないので、休みに自宅に部品を持ち込んで、組み上げた。

さっそく試聴。 古ぼけたかまぼこ型の音が出てくるだろうと、思っていた。 確かに、金田式アンプに比較したら、低域も不足気味だし、高域の伸びもいまひとつだし、荒削りだ。 ところが、どうしてどうして、音楽の雰囲気感は、むしろ金田式よりもいいぐらい。 これは、只事ではない。 各種の部品はT氏の手持ちのものを使っていたので、カップリングコンデンサペーパー(MP)コンデンサを使っていたが、まず、これを変えてみたくなった。 翌日、部品屋に走り、ポリカーボネイト・フィルムに変更し、電源の電解コンデンサやパスコンにも、ポリカーボネイト・フィルムをパラった。 昨日、気になっていた荒削りなところがなくなって、澄んだいい音になってきた。 当初の NFB 量は、6 dB であったが、試聴しながら最適値を探したところ、3 dB に減少させた。 NFB が減ったので、初段管を 12AX7A から 12AT7 としたところ、音の変化は、NFB 量の変更より大きかった。 低域の音が太く、たくましくなってきた。 手持ちの 12AT7 は、先に述べたジャンクだったので、12AT7 を Siemens の ECC81 へと替えたところ、ノイズが更に減少して好結果が得られた。

さっそく、6R-A8 シングルの真空管アンプで先の Altec-A7 を鳴らさせてもらった。 もちろん、自慢の金田アンプも持ち込んだ。 結果は、どう聴いても 6R-A8 シングルの勝ち。 音がどうだこうだという前に、聴いていて楽しいのだ。 この時に、以前に金田式アンプへの評価として「確かにいい音なんだけど、楽しくない。 スィングできない。」といわれたことが、どういうことを言っていたのか、やっとわかった。 とにかく、6R-A8 シングルは、雰囲気感がいいし、人の声が暖かい。 難点をあげれば、低域の制動が足りないことだろうか。 そこに、友人の親父さんがやってきで、聴いていただいたので、私は、もう1台 6R-A8 シングルを組むハメに相成った。

ところで、私の Fostex A-300 ではどうだろうか。 さすがに、6R-A8 + H-5S の組み合わせでは、重くて低能率のウーファを駆動しきれないように思えた。 金田式アンプは、逆に、低域の感じは良い。 そこで、A-300 を改造して、即席のマルチアンプ駆動をさせてみた。 ウーファは金田式で、スコーカー・トゥィターは 6R-A8 シングル。 ところが、音色が違いすぎて、異和感たっぷり。 チェロが低い音階から上に駆け上がっていくと音が変わってしまう。 なかなかうまくいかないものだ。

いずれにせよ、6R-A8 のシングルアンプには、驚いた。 本来のオーナーのT氏が喜んだことはいうまでもない。 私の方は、次の真空管アンプを組み上げることを考えていた。(もう、金田式プリアンプのことは頭にない・・・。)

(to be continued...)

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