ROBERT SCHUMANN の指の故障・死因の謎?(その2) | (98/5/5 記) |
2. 梅毒って?
皆さんご存じのように、梅毒は、性行為感染症である。 性的接触によって感染がひろがる。 病原体は、野口英世が発見したスピロヘータである。 スピロヘータは、身体のどこにでも侵入して、その部位を養っている血管をダメにしてしまう。 血液の供給が途絶えた部分は、当然ながら、ダメになって崩れ落ちてしまう。 なるほど。 鼻が腐って落ちたりするわけで、確かに、怖い。
梅毒に感染すると、最初の症状は、感染した場所(外陰部)に赤いポツポツが認められる(下疳と呼ばれる)。 このポツポツは、すぐに崩れ去って、無痛性の潰瘍を生じる。 感染箇所の周囲のリンパ節(身体の各所にある、小さな扁桃腺のようなもの)が腫れ上がることも珍しくない。 これらの症状は、4〜8週間で自然に治ってしまう。 ここまでの時期を、第1期と呼ぶ。 この時期は、他人に対して、感染力が非常に強い時期だ。
現代なら、すぐに病院に駆け込んで、ペニシリンなどの抗生物質で、すぐに治るわけだが、R. Schumann の時代には抗生物質なんてないから、次の第2期に進行していく。
第2期になると、外陰部のみならず、全身の皮膚粘膜に、第1期と同様のポツポツが出るようになる。 第1期と同様に、自然に治っていくが、傷痕がのこる。 また、目などの粘膜に出れば、失明することもあるようだ。 この時期のポツポツは、最も梅毒に特徴的な発疹で、最も鮮やかな赤色をしている。 この梅毒に特徴的な発疹は、第2期を過ぎると見られなる。 頭にできれば、ポツポツは崩れ去ってしまうので、当然、髪もなくなってしまい、二度と生えてこない(梅毒性円形脱毛症)。 この時期は、個人差がありますが、おおむね2年続く。 皮膚症状がある間は、感染力がある。
その後、第2期におこっていた症状は消えうせ、後期潜伏期(通常、感染してから発症するまでの潜伏期のことを、梅毒の場合は、特に前期潜伏期と呼ぶ。)に入る。 この時期は、感染力がないし、何の症状もない。 幸いなことに、おおむね3分の2の梅毒患者は、何の症状もなく、この状態のまま、一生を過ごすことができる。 ところが、残りの3分の1の患者では、悲惨な第3期に移行していく。
第3期は、下記の3つの状態がおこる。 第3期にはいると、もはや、他人への感染性はない。
(1) 皮膚、骨および内臓の良性第3期梅毒(他の2つと異なり、致命的でないので、良性と呼ばれるが、生き地獄と言った方が良さそう)
良性第3期梅毒では、ゴム腫とよばれる特有の腫瘍(正確には慢性肉芽腫)が、皮膚、骨、内臓にできる。 ゴム腫は次第になくなっていくが、その後に大きな瘢痕が残る。 病変部が崩れ落ちるといったほうが、適当でしょう。 たとえば、鼻がくずれたり、頬に穴が開いたりする。 骨におこれば、骨が崩れるわけで、非常な痛みを伴う。 骨が崩壊した結果として、時には、骨折を引き起こす。 内臓におこれば、当然ながら、その臓器の機能障害がおこる。 最も多いのは、胃病変で、嘔吐、食欲不振がおこる。 内臓病変がおこると、そこから、癌が発生することも珍しくない。
(2) 心血管性梅毒
初感染後、10 ないし 25年後に発症する。 上行大動脈解離性動脈瘤,大動脈弁閉鎖不全をおこす。 患者のほとんどは、ひとたび発症すれば、死に至る。 (現代の医学をもってしても、数日で死亡する。)
(3) 神経梅毒
神経梅毒は、症状の有無により、症候性神経梅毒(症状あり)と無症候性神経梅毒(症状なし)とに分けられる。 症候性神経梅毒は、無治療梅毒患者のおよそ5%の患者におこる。
最初におこるのは、髄膜血管性神経梅毒である。 髄膜(脳や脊髄をおおう膜のこと)への病原体の侵入によって引きおこされる。 症状は、さまざまだが、頭痛、めまい、集中力低下、倦怠、不眠、視界のかすみなど。 侵された部位によっては、精神錯乱,てんかん様発作,失語症、身体の一部の麻痺(単麻痺、片麻痺など)もあり得る。 脳神経麻痺、瞳孔異常などもおこる。 また、肩と腕の筋肉の脱力と萎縮、あるいは、失禁などの膀胱症状を伴う進行性の両足の麻痺(対麻痺)もおこり得る。
引き続いておこってくるのが、実質性神経梅毒である。 脳神経が直接侵され始めることによって引き起こされる。 進行麻痺は、主として 40 才代ないし 50 才代の患者にみられる。 発病は目立たず、行動・性格の変化が最初の症状として現れる。 過敏、集中力低下、記憶力低下、判断力低下、頭痛、不眠、および嗜眠状態が、目立つ症状である。 患者は、たいがい、衛生と身だしなみが悪くなる。 情緒不安定、無力感、抑うつ、および洞察力の欠落を伴う誇大妄想などもよくおこる症状だ。
病状が進行すると、口,舌,上肢ないし体全体のふるえ(振戦)、特徴的な瞳孔異常(アーガイルロバートソン瞳孔)などがおこる。 筆跡は、通常震えて読めなくなる。脊髄癆(運動失調症)は、脊髄が侵された場合の症状で、身体の各部位の疼痛、、麻痺や失調などがおこる。 最初の,そして最も特徴的な症状は、足の激しい,刺すような痛み(稲妻のような痛み)だ。 次いで、歩行が不安定になり、尿失禁などの膀胱症状をきたす。 男性なら、インポテンツになる。
神経梅毒は、死に至る病である。 進行麻痺や脊髄癆が進行すれば、食事を取ることはもちろん、動くことができなくなる。 呼吸中枢が侵されれば、呼吸も止まってしまう。 Robert の時代なら、食事を取れなくなった時点で、一巻の終わりだと思ってよい。
以上に挙げてきた神経梅毒の症状は、脳腫瘍や痴呆症などでもおこり得る。 しかし、アーガイル・ロバートソン瞳孔だけは、梅毒によってのみ引き起こされると考えてよい。 なぜなら、この症状は、脳底髄膜炎の時におこりうる症状で、他の病気でもおこり得るが、梅毒以外で脳底髄膜炎をおこすのは非常にまれだからだ。 つまり、アーガイル・ロバートソン瞳孔が認められれば、ほぼ間違いなく神経梅毒と診断できる。 アーガイル・ロバートソン瞳孔では、瞳孔が、遠近調節には正常に反応するが、光には反応しない。 瞳孔は小さく、左右差がある。
最後に、先天性梅毒について少し。 母親が梅毒だと、生まれてくる子供は、先天性梅毒にかかる可能性がある。 先天性梅毒では、各種の奇形が認められることがある。 幸いなことに、先天性梅毒の子供は、梅毒の母親から生まれた子供の5%程度にしか見られない。 また、ほとんどの場合、一生を梅毒との共存状態で普通の生涯を送ることができる。
さて、上記に掲げてきた梅毒の特徴で、1.疑問の数々であげてきた、疑問が解けるでしょうか? 既に、かなり長くなったので、この説明は次回に・・・・
(to be continued...)
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