Sphinxs 聴き比べ | (99/5/9 記) |
掲示板の常連・某氏とのメールのやり取りの中で、「 Sphinxs を聴いたことがない。」と言われて、思いついた企画(爆笑)です。
Sphinxs とは、謝肉祭 (Carnaval, Op. 9)の第8曲 Replique と第9曲 Pappilons との間にくる曲で、楽譜上には、次のように書かれています。
譜例譜例1にあるように、Clara 原典版の楽譜では、演奏されるべきではないと注釈がついています。 ところが、最近の録音では、弾いている人も少なくないんですね。 手持ちの LP/CD で、次の人たちは、Sphinxs を弾いていません。
仲道郁代
Gerhard Oppitz
Vladimir Ashkenazy
Artur Rubinstein
Friedrich Wilhelm Schnurr
Alicia de Larrocha
Adelina de Lara
Bella Davidovich
Wilhelm Kempff
Peter Frankl
Jrk Demus
Myra Hess
一方、Sphinxs を弾いているのは、次の方々です。
演奏者 | 演奏年 | コメント |
Alfred Cortot | 1928 | けっこう、がっちりとオクターブで弾いている。 |
Vladimir Tropp | 1995 | どうどうたる強音での演奏で、悪びれない演奏。 |
伊藤恵 | 1990 | オクターブでの演奏で、次の曲への連続性を配慮している。 |
Sergey Rachmaninov | 1929 | どうどうたる演奏に、自分で伴奏(?)までつけている。 |
内田光子 | 1994 | 聞こえるか聞こえないかの弱音での演奏。 |
Annerose Schumidt | 1977 | 単音で素直に弾いている。 |
Samson Franois | 1956 | オクターブで、素直に弾いている。 やや弱めの音。 |
Karl Engel | 1973 | 書いてある音をそのまま、ただ鳴らしているような感じ。 |
n'Guin の個人的な意見としては、Sphinxs を弾かないほうが、好ましいように思っています。 Clara が弾かなかったという歴史的な事実もあります。 しかしながら、Sphinxs を弾くことで、その直前の曲 Rplique (応答)と直後の曲の Papillons (パピヨン)とのつながりが、よく分からなくなってしまうことが、私にとっては大きな理由になっています。 もし私が Sphinxs を弾く演奏をするとすれば、解釈は2つあると思います。 ひとつは、Rplique (応答)と直後の曲の Papillons (パピヨン)とのつながりが断ち切れるように弾くことでしょう。 Sphinxs の音程それ自体を楽しみい、しっかりと表現して Sphinxs を弾くことです。 もうひとつは、逆につながりの邪魔にならないように Sphinxs を弾くという可能性です。 この場合は、曲全体の流れのなかで、Sphinxs を生かす構成を取る必要が出てきます。 いずれにせよ、Sphinxs を弾くことでの、曲全体の表現・解釈に与える影響は大きいものがあります。 Sphinxs は、悲観的・悲劇的で「闇夜の暗さ」を表現する Eusebius 側の小曲となります。 陽気で楽天的で「昼の明るさ」を表現する Florestan 側の小曲をどのように表現するかが、大きな課題になります。 Sphinxs の徹底的な暗さに対抗できるだけの明るさを、どうやって維持するのか? あるいは、Sphinxs に引きずられる形で、全体を暗めにしてしまうのか? 与えられた課題は、非常におおきいと考えられます。
さて、これらの Sphinxs の演奏の中でのおすすめの録音をあげておきましょう。 積極的な Sphinxs 効果を挙げている録音として、Sergey Rachmaninov の録音をあげたいと考えます。 演奏者が適当に伴奏をいれており、これほど目立つ Sphinxs はないでしょう。 逆に、曲の流れに逆らわない Sphinxs としては、内田光子、あるいは、Annerose Schumidt が良いように思います。
それにしても、こんな企画・・・ だれも考えないかも(^^)。
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