Myrten, Op. 25 (その1) (98/10/11 記)
 

この曲は、1840 年 2 - 4 月に作曲され、結婚の前夜、Clara へプレゼントされています。 シューマンの歌曲の中でも最も有名な愛の曲で、演奏されることも多い曲です。 この歌曲集は全部で 26 曲からなっていますが、歌詞は特定の一人ではなく、また曲同士の結びつきもゆるやかです。 題名となる Myrten は、木の名前です。 幸運、恋愛、結婚、花嫁・・・といったイメージをあらわし、白あるいは淡いばら色の花を咲かせ、花は花嫁の装飾に使われ、純潔をあらわすとされているようです。 Robert は、この歌集の出版にあたり、「このリート集は明るめの色合いを持つものが多いので」、表紙の色として、「緑色ないし青色」を希望したといいます。

1. Widmung (献呈)

Du meine Seele, du mein Herz,
Du meine Wonn', o du mein Schmerz,
Du meine Welt, in der ich lebe,
Mein Himmel du, darein ich schwebe,
0 du mein Grab, in das hinab
Ich ewig meinen Kummer gab.
あなたは私の心、私の魂、
あなたは私の喜び、私の心の痛み、
あなたは私が生きる世界そのもの、
あなたは私が舞い上がっていく空、
ああ、あなたは私の心の痛みを
永久になぐさめてくれる、私が行きつく場所!
Du bist die Ruh, du bist der Frieden,
Du bist vom Himmel mir beschieden.
Daß du mich liebst, macht mich mir wert,
Dein Blick hat mich vor mir verklärt,
Du hebst midi liebend über midi,
Mein guter Geist, mein beßres Ich!
あなたは救い、あなたは安らぎ、
あなたは天が与えてくれた恋人。
あなたの私への愛は、私にはかけがいのないもの。
あなたのまなざしは、私以上に私のことを教えてくれる。
あなたの愛によって私は私以上のものになる。
あなたは私の天使、私以上に大切な私そのもの!

和訳しているこちらの頬が赤らんでしまうような(^^)愛の賛歌で、作詞は、Friedrich Rückert です。 Robert の想いと詩が密接に結びついているといえましょう。 この曲は、Myrten Op. 25 の中でも、最も有名な曲のひとつで、私が Robert の歌曲を聴くようになった思い出の曲でもあります。 Liszt によって編曲され、ピアノ曲としても演奏されます。 (このホームページの BGM になっています。 フレームの左側のボタンを押してみてください。) 下の譜例1には、冒頭を示しました。 ピアノ伴奏の軽やかで、弾むようなリズムが、恋人を慕いあこがれる熱烈な愛を語る詩と組み合わされています。 曲の内容からは、男声でも女声でも良いはずなのですが、私には女声のほうが、マッチするように思うのは、なぜなのでしょう。 単に、異性の声のほうが、好ましく思うだけなのかもしれませんが、私の女房も女声のほうが良いといっているので、慣れの問題なのかもしれません。

  譜例1
Myrten Op. 25-1 (7K)
指定の Innig, lebhaft とは、「親しげに、活気をもって」という意味。
伴奏の付点音符の動きや、ペダリングに注意したい。

2. Freesin (自由な心)
Laßt mich nur auf meinem Sattel gelten!
Bleibt in euren Hütten, euren Zelten!
Und ich reite froh in alle Feme, Über
meiner Mütze nur die Sterne,
ぼくを、いつも、馬上の人にさせておくれ。
きみたちは、小屋に、テントのなかに坐っていなさい。
そして、よろこび勇んで、ぼくはどんな遠くにも出かけよう。
星がぼくをみまもってくれる。
Er hat euch die Gestirne gesetzt
Als Leiter zu Land und See;
Damit ihr euch daran ergötzt,
Stets blickend in die Höh.
神はおまえたちために空に星座をおいた、
陸や海を行くための道しるべとして。
いつも夜空を見上けながら、
それを楽しむことができるように。

ライナーノートによれば、この曲は、Johann Wolfgang von Goethe が「自由な心」という題で書いたふたつの詩を Robert がひとつにまとめたものなそうです。 実際には、第1段落が、第2段落後に、再度歌われ、三部形式になっています。 

3. Der Nussbaum (くるみの木)
Es grünet ein Nußbaum vor dem Haus,
  Duftig,
  Luftig
Breitet er blättrig die Äste aus.
家には、一本のくるみの木があおあおしている。
  良い匂いで
  さわやかに
大きく枝をひろげている。
Viel liebliche Blüten stehen dran;
  Linde
  Winde
Kommen, sie herzlich zu umfahn.
たくさんのかわいらしい花が咲きいでて、
  おだやかな
  そよかぜが
そよいでて、やさしく花々をゆりうごかしている。
Es flüstern je zwei zu zwei gepaart,
  Neigend,
  Beugend
Zierlich zum Kusse die Häuptchen zart.
花々は二つずつ対になって、ささやさあう、
  頭をかしげて
  身をかがめて
優雅に、やさしくくちづけしあう。
Sie flüstern von einem Mägdlein, das
  Dächte
  Die Nächte
Und Tage lang, wußte, ach, selber nicht was.
花々はささやさ合う、ある乙女のことを、乙女は、
  夜も
  昼も
日がな考えてみても、わからない。 ああ、何を考えているのだろうか。
Sie flüstern, wer mag verstehn so gar
  Leise
  Weis?
Flüstern von Bräutigam und nächstem Jahr.
花はささやき、うたいつづける。 でも誰が気がつこうか
  こんなかすかな
  ささやきを。
花がささやいているのは来年のこと、花婿のこと。
Das Mägdlein horchet, es rauscht im Baum;
  Sehnend,
  Wähnend,
Sinkt es lächelnd in Schlaf und Traum.
乙女は耳をそばだてている。 風が木にさざめく。
  うっとりとして
  はほえんんだまま
乙女はよどろみに、夢のなかへと落ちていく。

この優美な曲は、Julius Mozen の詩によるものです。 ひめやかにそよぐ風と木が、来年には花嫁になる乙女のことを、さざめいているという内容です。 内容的には、第1曲の Widmung を受け継ぐ曲で、第1曲と同様に上向調の分散和音を多用したピアノ伴奏がつけられています。 ピアノと声とが交錯するときに生まれる響きは、他の作曲家の作品にはない美しさだと思います。 この曲では、声は、時に、ピアノの後ろに隠れて、歌詞にあるように、"so gar Leise Weis" (こんなかすかなささやき)になり、花や風のささやきを演じるのが、聴きどころのひとつだと思います。

4. Jemand(あの人)
Mein Herz ist betrübt, ich sag' es nicht.
mein Herz ist betrübt, betrübt um Jemand;
Ich könnte wachen die längste Nacht.
Und immer träumen von Jemand.
0 Wonne! von Jemand!
0 Himmel! von Jemand;
Durchstreifen könnt' ich die ganze Welt
Aus Liebe zu Jemand.
私の心は苦しい、口には出さないけれど、 私の心は苦しい、あの人を求めるあまり。 どんなに長い夜でも、眠ることなく、 まだ見ぬ人のことを夢みているのです。 ああ、喜びよ! あの人からもたらされる! ああ、幸せよ! あの人からもたらされる! 私は世界中を、探し回るでしょう。 あの人を愛するあまり。
Ihr Mächte, die ihr der Liebe hold,
o lächelt freundlich auf Jemand!
Beschirmet ihn, wo Gefahren drohn;
gebt sicher Geleite dem Jemand!
0 Wonne! dem Jemand!
0 Himmel! dem Jemand!
Ich wollt', ich wollte, was wollt' ich nicht
für meinen Jemand!
愛をいつくしむあなた方、神々よ、 ああ、どうかあの人にほほえみかけてください。 あの人に危険が迫っているときには、守ってあげてください あの人を安全に導いてあけてください! ああ、喜びよ! あの人のために! ああ、幸せよ! あの人のために! どんなことでもしてあけたい、 あの人のためなら。

第4曲では、スコットランドの詩人 Robert Burns の詩を Eduard Gerhard がドイツ語訳した詩に Robert が作曲しています。 恋にあこがれる乙女の祈りをあらわした曲なのでしょうか。 詩は安直に堕しがちな内容ですが、Robert の手にかかると、説話のように聞こえるから不思議なものです。

5. Aus den Schenkenbüch desl "Westöstlichen divan I(西東詩集 酌童の巻より I)
Sitz' ich allein,
Wo kann ich besser sein?
Meinen Wein
Trink ich allein;
Niemand setzt mir Schranken,
Ich hab so meine eignen Gedanken.
ぼくは、ひとりで坐っている。 これ以上、よいことがあろうか。 自分のワインを、ひとりで飲む。 だれも自分の邪魔をしたりなぞしない。 自分ひとりの考えにふけるのみ。
6. Aus den Schenkenbüch desl "Westöstlichen divan II(西東詩集 酌童の巻より II)
Setze mir nicht, du Grobian,
Mir den Krug so derb vor die Nase!
Wer mir Wein bringt, sehe mich freundlich an,
Sonst trübt sich der Eilfer im Glase.
隣にすわるな、無作法なやつめ。 鼻先にグラスを乱暴にほうりだすとは! 酒を給仕するものは、もっと丁寧でなければならない。 さもなければ、せっかくのワインも駄目になってしまう。
Du lieblicher Knabe, du komm herein,
Was stehst du denn da auf der Schwelle?
Du sollst mir künftig der Schenke sein,
Jeder Wein ist schmackhaft und helle.
かわいらしい少年よ、こっちにおいで。 敷居の上で、もじもじしながら、立っているんだい? これからはきみに酌をしてもらおう、 どのワインもおいしくて、澄んでいるんだ。

第5・6曲は、Johann Wolfgang von Goethe による詩に作曲されています。 第2曲の Freisinn に引き続く曲のようです。 孤独で、愛をほしがっているけれども、そんなことはおくびにも出さない男が、何とか結婚にいたるまでの様子が、Myrten の影のテーマのように思うのですが、これは考え過ぎなのでしょうか?

(to be continued...)

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原詩の日本語訳は、私 n'Guin が気のおもむくままに、訳したものなので、誤りがたくさんあることだろうと思います。 誤りを見つけたら、あははははっ! と笑って、私に教えてくださいな。