Variationen ber den Namen Abegg, Op. 1 | (98/8/14 記) |
Variationen ber den Namen Abegg (アベッグ変奏曲、op. 1)は、その名前の音名の ABEGG を主題とした変奏曲です。 この作品は、ポリーヌ・フォン・アベッグ伯爵夫人に捧げられていますが、この人物は実在しないことがわかっています。 いかにも、シューマンらしい茶目っ気だと思います。 変奏曲は、テーマと 5 個の小曲からなっています。
譜例1で示したモチーフは、Variation I 以降では、必ずしもそのままの形では出てきません。 例えば、Variation I では、最初の A-B だけが繰り返される形(ライト・モチーフとでもいえばいいのでしょうか)出てきています。 Variation II や Finale の冒頭も同様になっています。 しかし、左手の伴奏の形で、A-B-E-G-G のモチーフが Variation I, III でも出てきますし、Cantabile や Finale では、移調した亜型の進行(譜例3)が出てきます。
単純な A-B-E-G-G のモチーフだけで、これだけの曲になっていくこと自体が驚きですが、圧巻は下の譜例4に示すイメージでしょう。 和音からひとつずつ消えていく音が A-B-E-G-G になっています。 楽譜上では、A-B-E-G-G のイメージは鮮明ですが、この譜例4を聴いて A-B-E-G-G を聞き取るのは至難の技です。 スラーでつなげられている同音は、新たに打鍵されることはありませんが、アクセントがつけられています。 このアクセントは、実際に弾くことは出来ませんから、あくまで演奏者の心象として演奏されるべきものなのでしょう。 我楽多(がらくた)箱・Schumann の楽器って でも述べましたが、Schumann にとって、ピアノ曲は、ピアノの音色で奏されるべき頭の中の曲なのです。 作品番号1の、この曲で、早くも、この Schumann らしさが現れていると感じます。
さて、お勧めの演奏ですが、若干録音が古くなってしまうのですが、Clara Haskil の演奏(LP: Philips 6747055)を第一にお勧めします。 私が常に気にしている、Schumann らしい和声の重なりぐあいも綺麗ですし、A-B-E-G-G のモチーフやその発展が良くわかります。 譜例4のところの表現も美しいと思います。 欲を言えば、もう少しテンポが遅ければ、和声の重なりの美しさがより鮮明だったかもしれないことぐらいでしょう。 逆に、和声の構成・構築に重点をおいて聴くのであれば、Claidio Arrau の演奏(LP: Philips 6768084)を聴くのも良いでしょう。 こちらは、ちょっと無骨過ぎると批判がつくかもしれませんが。 この他には、Karl Engel、Jrk Demus など録音もあります。
(以降 98/9/27 追記)