QUAD 44 + 405 との出会い (98/9/20 記)
 

平成7年の4月に、私達は、現在のマンションに移り住んだ。 およそ 80 m² 弱の居住スペースに、占有できる庭が、25 m²。 仙台の中心部としては、まずまずの広さのマンションである。 リビングのおよそ 14 畳弱のスペースには、オーディオ類とローセットテーブルと食器ダンス2つのみということで、オーディオ鑑賞用には、できるだけのスペースをとったつもり…

ここに引っ越してくるまでは、8畳弱の部屋に、オーディオのみならず、いろいろと押し込めて聴いていた。 引越し後は、やっと ESL-63 も真価を発揮してくれるようになり、喜んでいた。 しかしそれもつかの間。 右チャンネルからの音が、おかしい。 バランスが取れない。 故障だ。 調べてみたら、メインアンプの Lux MQ-70 の右チャンネルの終段の 6C-A7 が駄目になっていた。 さっそく近くのお店から、EL-34 を2ペア入手して、差し替えて調整をしなおした。

調整をしてみて感じたのは、MQ-70 は、そろそろ寿命が近いこと。 今回駄目になったのは、終段球だけであるが、真空管の様子からすると、おそらく、ドライバ段の 6240G も近い寿命が来そうな雰囲気。 真空管マニアの方はご存知のように、6240G は、ラックス独自の球で、代替球がない。 そうなると、完全に改造しなおさないといけない。 以前の私なら、腕を振るう場面がきたと喜んだかもしれないが、時間がない現在の私にはつらい話だ。 そういうわけで、代替アンプを探すことに相成った。

代替アンプとして、候補に上がったのは、AccuphaseLUX の真空管アンプ、A-Class プリメインなどなど・・・。 一度は憧れの高級機 Accuphase とも思ったのだが、細く、腺病質な響きは、好みに合わない。 値段を考えたら割に合わない・・・ということで、試聴一発でパス。 次は、ラックスのアンプ群であったが、??? 感性があわないというか、よく出来たアンプだと思うのだが、食指が動かない。 今にして思えば、リラクセーションの表現が苦手だということに尽きるのだと思うが。

次に、紹介されたのは、LINN のアンプ群。 LINN に惚れこんでいる方が、アンプを自宅まで運んでくれて試聴させていただいた。 高域に癖があって、私の大好きな Ameling がヒステリーのおばさんになってしまう。 アンプを持ちこんだ方にいわせると、カートリッジが悪い、LP プレーヤが悪い・・・ということなので、結局、愛聴盤を持ちこんで、ご自慢の LINN システムを聴かせていただいたが、全く同じ印象である。 あげくは、『 LP が悪い。 演奏が悪い・・・。』とのたまわれる始末。 さすがに、こちらの堪忍袋の緒が切れた。

代替アンプを探す旅は続く。 ここまできて、QUAD のアンプは、どうなのだろう・・・? という疑問。 オーディオ雑誌などの評価は、いつも低い QUAD のアンプではあるが、どんなものだろう。 純正組み合わせという点では、興味深いものがある。 興味はあるが、仙台では試聴できるところもない。

そういうときに限って、中古の良い出物が、無線と実験の広告にでたりする・・・。 保証付きの 44 + 405。 値段は、当初の Accuphase を購入する半分以下。 純正アンプだから、一台持っていても、いいよなぁ・・・ ぐらいの軽い気持ちで購入を決定。 電話を入れると、「すみません。 もう売れてしまいました。」とのこと。 逃がした魚は大きいと思うのが、人の常。 「もうちょっと値段が張りますが、もっといいのがありまっせ・・・」と悪魔が来たりて笛をふけば、踊ってしまうのが私・・・(笑)。

届いて、聴いてみてびっくり! 私にとっては、非の打ち所がないアンプである。 響きの良い、自由闊達な音で、神経質で腺病質な音から最も縁遠いアンプである。 オーディオには興味がないが、音楽には興味のある(ヴァイオリン弾き)の女房も、LUX CL-34 + MQ-70 からの音の変わりようには、驚いたようで、『断然、新しいアンプの方が良い。 安くて良いアンプというのもあるのねぇ。』とご満悦。

驚いたことに、405 の説明書には、回路図までついている。 基本的には、オペアンプ+SEPPで構成されているアンプで、こんな回路からいい音がするはずはない・・・ と思ってしまうのだが、出てくる音には、満足させられてしまう。 回路設計より、耳で作った音作りが重要視されている海外製品らしい出来あがりともいえる。 このときに思い出したのは、是枝重治氏が、ラジオ技術増刊『集大成プリアンプ』(1985年刊)で、次のように述べられていらしたことです。

海外製では QUAD 22, 33 が抜群

1968 年ころに 22 の後継機種として TR 化(トランジスタ化)された 33 型が発売されましたが、これは意外に優秀なプリアンプです。 回路構成はまことに古めかしく頼りない設計なのですが,実に良い音がしました。 聴感上の帯域はとても狭く音場感に乏しい音なのですが,必要な帯域内の再現力は素晴らしく,力感と輝きに満ちていて素敵です。

(中略)

一般的に英国機は小型に作られいて気をてらったような回路とか,豪華さだけの外観とは一切無縁です。 しかしながら,使ってみると,扱いやすく,そして愛着の沸く独特の雰囲気に満ちています。 これは現代の英国機にもいえることです。 いまだに英国は真の大国,いわば大人の国なのでしょう。

ラジオ技術別冊『集大成プリアンプ』(1985)より、
プリアンプ設計の系譜(p.29 - 60 是枝重治 著)
プリアンプ設計の必要条件

プリアンプの設計家というのは独特の人格を形成している人物が少なくありません。 物事に執着し、躁鬱的な気質を有する人が良い作品を造るように思われます。 前述のようにプリアンプというのは回路だけいくら練っていても作れないものです。 熱狂的な音楽愛好家であり、ものごとをシステム的に分析し,機械の存在を人間との有機的な結合として考えることができる人にしかプリアンプは作れません。

(中略)

一般的に雑誌などにプリアンプの製作記事が少ないことは,第一に製作が複雑だという理由のほかにソフト部門を軽視する日本人および日本社会の特性が如実に現れていると私は思います。 ソフトを軽視しているのはコンピュータだけではないのです。 あれほど稚拙な回路のクォード 33 がプリアンプとしてきわめて優秀な理由は、実はここにあるのです。 日本人として優れたプリアンプ設計家だった故瀬川冬樹氏も、そういえば本職は工業デザイナーでした。 氏がかつて『ラジオ技術』誌に発表したプリアンプ論は 1960 年代中期としては、たいへん優れたものでした。

ラジオ技術別冊『集大成プリアンプ』(1985)より、
プリアンプ設計の系譜(p.29 - 60 是枝重治 著)

引用が非常に長くなりましたが、この指摘は、現在の高級オーディオでもあてはまることだと思います。 書かれてから、既に 15 年近くがたっている文章ですが、全く古さを感じさせられないどころか、思い当たるふしが、いくつでも出てきます。 QUAD 44 以降、日本でどれだけのプリアンプが発表されたかわからないほどですが、現在なお名前を挙げられる機種はどれだけあることでしょうか。 時間という最も過酷な評価を経て、なおも現在に残っている機種がいかに少ないか・・・ ということを日本の高級オーディオ界はどうとらえているのでしょうか? もしも瀬川冬樹さんが生きていらっしゃれば、お嘆きになることは間違いありません。 

さて、本題の、Quad 44 + 405 に戻りましょう。 満足しているのは、言うまでもないのですが、音が良くなればなったで、欲がでてくるのが、人の常。 若干の難点をあげつらえば、あまりにまとまりすぎているということか。 それと、QUAD ESL などコンデンサ型の欠点でもあるのだが、低域の伸びがちょっと物足りず、後期ロマン派以降の大編成物を聴くのは、ちょっと苦手・・・ ということか。 それなら、良質の Super Woofer を入れたらどうなるのだろうと思ってしまうが、QUAD + Super Woofer なんてあまり聞いたことないなぁ・・・・

(to be continued...)

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