私のおすすめの曲 パート2 (98/7/9)

伊藤さんからいただいたお手紙です。

シューマンのピアノ曲ファンに、是非とも聴いて頂きたい曲

クララ・シューマン;ロマンスバリエ(Romance Variee)作品3

これはクララの象徴とも言える曲で、この曲の主題がロベルトやブラームスの多くの 曲に使われています。出版は1833年、クララが13才のときの作品で、ロベルトに初め て献呈された曲です。同時期に作曲され、「この曲は君への心の叫びだ」というメッ セージと共にクララに献呈されたロベルトのピアノソナタ第一番作品11(出版は1835 年)と比較すると、クララとロベルトが互いに愛を感じ始めた頃の感情のコントラス トが良く判ります。ロベルトの作品11の方は情熱的で、和音にも影を帯びた響きに満 ちています(青年の悩める恋の響き〜ロベルトは22才)。一方の13才のクララのロマ ンスは明るく、可愛いメロディに溢れています。まるで仲良しのお兄ちゃんとオニゴ ッコをしたり、お伽話を聞いたりしている、そんな感じのメロディが変奏曲として綴 られています。

13才の少女の作品ですから、作曲技法的に高度な曲ではありません。しかし個人的に は何万と所有する音楽の中で最も愛している、心から可愛いと思える曲でなのです。 墓の中に一曲しか持って行けぬのならば、私は迷わずこの曲を持って行くでしょう。

現在までに4種類のCDで発売されましたが、残念なことに史上唯一のクララのピアノ 独奏曲全集(3CD)であり、最も演奏の優れたJozef de Beenhouwer盤は5年前に廃盤 になってしまいました。Uriel Tsachorの演奏はクララの可愛らしさを全く表現でき ていません。従って現在購入可能なものではVeronica Jochum : TUDOR 7007をお勧め します。Pro Arte CDD 396も廃盤です。

Clara, Robert & Johannes. Performed by Veronica Jochum : Pro Arte CDD 396
Clara Schumann Piano Works by Veronica Jochum : TUDOR 7007
Clara Schumann Complete Works for Piano vol.2 by Jozef de Beenhouwer : Partridge 1130-2
Clara Schumann Piano Works by Uriel Tsachor : DISCOVER DICD 920267

ロベルト・シューマン;クララ・ヴィークの主題による即興曲作品5

この曲はロベルトがクララから作品3の献呈を受けて、直後にその主題を使って作曲 しました。22才のお兄ちゃんが13才の妹に対して、感謝と愛情の気持ちと、「作曲は こうするんだよ」という手本を見せたような曲です。ロベルトの天才性が存分に発揮 されています。

即興曲という名前ですが、ロベルトの作品5の実体は変奏曲です。クララの作品3も変 奏曲であり、主題も基本的に同じなので、この二曲は音楽史上最良のカップルの最初 の競作と言って良いと思います。ロベルトはこの曲の出版譜に並んだ自分とクララの 名前を指して「僕たちの未来を暗示しているようだ」と語りました。

ピアノソナタ第三番作品14第三楽章(クララ・ヴィークの主題による変奏曲)と混同 されがちですが、全く違う曲です。こちらの主題もクララの作品3から取られている という文献もありますが、私の耳では判りませんでした。

ブラームス;ロベルト・シューマンの主題による変奏曲作品9

この曲はロベルトのブンテ・ブレッター(雑記帳)作品99の中の、5つのアルバムの 綴りの第一曲の主題を用いた変奏曲ですが、バステーマにはクララの作品3が使われ ています。ブラームスという巨匠が、クララを含めたシューマン夫妻をどれだけ尊敬 していたか手に取るように判る作品です。夫妻を象徴するふたつの主題を使いながら 、ブラームスは自分の作曲の才能を最大限に発揮し、雄大深淵な変奏曲を作り上げて います。

なお、ブラームスには同じ曲名の作品23があります。こちらはロベルト最後の曲と言 われる「天使の主題による変奏曲(遺作)」のテーマを用いた、4手ピアノ用の曲で す。既に天に昇ったロベルトに対して、ブラームスとクララが共同で捧げたレクイエ ムの様な曲です。こちらも是非聴いてみてください。

クララ・シューマン;ロベルト・シューマンの主題による変奏曲作品20

この曲は是非ともブラームスの作品9とペアで聴いて下さい。
この曲もロベルトの作品99の主題(ブラームスと同じもの)を使った変奏曲です。最 も尊敬するロベルトに対して、巨匠ブラームスは自身の才能を捧げましたが、クララ は妻としての愛情を捧げています。判りやすく言うと、ブラームスの変奏曲は主題提 示が終わった瞬間からド素人の私の耳には主題が判らなくなるぐらい壮大な変奏を繰 り広げますが、クララの曲は常にロベルトの主題に寄り添っているのです。音楽評論 家に言わせれば、変化に乏しいつまらない変奏曲という誹りを受けるかも知れません 。でも、1853年当時既に病状悪化の兆しのあったロベルトに、曲の中でも常に側につ いていたかった、離れようとしても離れ難かった。そんな感情の伝わってくる、真の 妻の曲なのです。更にクララはこの曲の中でロベルトに寄り添う自分自身を表現する ために、ホンの一瞬、自分の作品3のメロディを用いています。

この曲はクララとロベルトが一緒に過ごせた最後のロベルトの誕生日、1853年6月8日 にロベルトに贈られました。

クララ・シューマン作品集 by Helene Boschi ビクターVICC50
Clara Schumann Piano Works by Konstanze Eikhorst : CPO 999 132-2
Clara Schumann Piano Works by Veronica Jochum : TUDOR 7007
Clara Schumann Piano Music by Cristina Ortiz : CARLTON 30366 00292
Clara Schumann Complete Works for Piano vol.2 by Jozef de Beenhouwer : Partridge 1130-2

クララ・シューマン;音楽夜会(Soirees musicales)作品6

この曲は1836年に出版されたクララが16才のときの作品です。6曲から構成されてい ますが、その第二曲のメロディはロベルトのピアノ協奏曲作品54・第一楽章に表れま す。また第五曲の主題はダービッド同盟舞曲作品6に用いられています。 この曲以降に作曲されたクララの曲は「少女が作曲したから」という言い訳無しに楽 しめる、作曲技法的にも成長した作品です。

Clara Schumann Piano Works by Konstanze Eikhorst : CPO999 132-2
Clara Schumann Piano Works by Veronica Jochum : TUDOR 7007
Clara Schumann Complete Works for Piano vol.1 by Jozef de Beenhouwer : Partridge 1129-2

クララ・シューマン;ピアノ協奏曲作品7

この曲はクララが13才から15才の間に作曲されました。11才のときに出会ったショパ ンの影響を強く受けた曲で、ショパンのピアノ協奏曲第一番の雰囲気が漂っています 。ただ、この曲で注目したいのは、第二楽章後半です。ピアノ協奏曲なのに独奏チェ ロが主役を務め、控え目なピアノ伴奏の下で美しい旋律を奏でるのです。この独創的 な楽想は後にブラームスのピアノ協奏曲第二番作品83・第三楽章前半で用いられます 。但しブラームスの場合はピアノではなく、オーケストラが控え目にチェロの伴奏を 務めています。

Clara Schumann Piano Concerto, Piano Trio, etc. by Veronica Jochum : TUDOR 788 この曲はロベルトのピアノ協奏曲とのカップリングで国内盤でも入手可能。

ロベルトとブラームス、2人の巨匠はクララの曲から多大なインスピレーションを得 ていました。そのクララを知らずにロベルト・シューマン(及びブラームス)を語る ことは、北京料理を知らずに中華料理を語るような物です。シューマン(及びブラー ムス)のファンの方は、是非ともクララの曲を聴いてみてください。彼女はピアノ独 奏曲を中心に、ピアノ協奏曲、室内楽、歌曲も残しています。

1996年がクララの没後100周年だった為か、1997年になってクララのCDが多数(とは 言ってもカップリング盤も含めて30枚程度が)発売されました。しかし作曲家として はポピュラーではないクララのCDは次々と廃盤になってきています。買うのなら今の 内。騙されたと思ってありったけ買っておきましょう。貴方が真のシューマニアなら 、10年後にはきっと「買っておいて良かった」と思えるはずです。クララは現在世界 に冠たる100マルク紙幣の肖像に使われていますが、欧州通貨統合によってマルクが 無くなれば、クララも忘れ去られ、CDも入手できなくなるかも知れないのです。

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