Pupils of Clara Schumann | (98/10/5) |
Pupils of Clara Schumann (クララ・シューマンの弟子たち Pearl, GEMM CDS 99049)という CD のライナーノートから、ロベルトの音楽に関する部分をまとめてみました。 (へたな和訳ですがお許しください。)
Friedrich Wieck のピアノ教授法と Robert 彼は、生徒たちに、手首を固くせずに、自由に動かせるようにしておいて、しかもレガートのタッチで弾くことを心がけさせた。 決して、ひじや上腕の力に頼ることなく弾くこと・・・キーを打つときには、たたくのではなくて、ソフトに押し下げるようにした。 そして、まろやかで、音量の豊かな響きの良い音を作り出すことに専心させた。 この方法によって、(外見的には)指先のわずかな動きだけで、対位法的な声部の響きのコントロールを作り出し、さらに音楽的な(内なる)豊かな響きを作り出させることができた。 この弾き方は、Friedrich Wieck が Liszt を揶揄するときに用いた"Finger hero(指先だけの曲芸師)" に対する、絶大なるアンチテーゼなのだ。 この方法こそが、ロベルトの作曲上のスタイルを理解するときの手がかりになることを忘れてはならない。 ロベルトもまた、1828 年の初夏から Friedrich Wieck の弟子であったのだ。 Friedrich Wieck の考え方、感じ方は、ロベルトのドイツ的なロマン主義の理想的な源流になり得た。 それは、暗く、自制された、しかし詩的なオイゼビウスによく投影されている。 しかし、奔放で楽しげなフロレスタンでさえもが、単純で、中身のない、"Finger hero" にはに陥ることはない。 フロレスタンもまた、詩の語り部たるオイゼビウスが持っているような、罪の意識を持ち合わせている。 フロレスタンもオイゼビウスも Friedrich Wieck の申し子ともいえるものなのだ。 この申し子(ロベルトの音楽)は、古典派の平衡感覚の外観をまとったロマン主義音楽だといえよう。 Jerrold Northrop Moore
Robert の音楽は、同時代人の Chopin、 Liszt とは、非常に大きく異なっているのは、誰もがご存じのことでしょう。 ヴィルトオーゾ・ピアニストを目指しながらも挫折した、Robert の音楽が、同時代人のヴィルトオーゾ・ピアニストのために書かれた音楽と大きく異なっている理由が、そのピアノ教師による・・・ という説明は、興味深いものだと思います。 なぜなら、Robert のピアノ曲は、聴衆に、ピアニストのヴィルトオーゾ性をアピールしないのですが、ピアニストにとっては、非常な難曲なのです。 とてもむずかしいのに、聴衆には、難しそうに聞こえない・・・ 逆に、軽々と弾いているかのように聴かせなければならない・・・ 何て、ピアニスト泣かせの曲なんでしょう。
Clara が生徒に教えた Robert のピアノ曲の演奏法 Fanny Davies (1861 - 1934) は、2 年間、Clara から直接教授されています。 そして Clara が Robert のピアノ曲について教えてくれたときのことを、次のように書き残しています。 Robert の音楽は、リズム感がなければ、台なしになってしまいます。 Robert 自身は、詩人で、情感にあふれ、幻想の世界に生きた人でした。 しかし、Robert の音楽は、情感におぼれた音楽ではありません。 あなた(Fanny Davies 自身のこと)は、Robert の音楽を、感情におぼれた音楽にに聞こえるように演奏してはなりません。
Robert は、意味を持たない音符や休符や付点を、ひとつとして書きませんでした。 楽譜にかかれているように演奏してください。 洞察力を持つ人にとっては、すべてが楽譜の上に記載されているのです。Jerrold Northrop Moore
私にとっては、「 Robert は、意味を持たない音符や休符や付点を、ひとつとして書きませんでした。 」という文章は、驚きでした。 私は、どちらかというと、Robert は、単にマニアックに付点を書き散らしているのではないかと、思っていたことがあったからです。 なぜなら、Robert の曲では、異様なほどの付点音符や細かな音符の羅列(例えば、64 分音符の羅列)が書かれていることが、よくあるからです。 その例として、交響的練習曲の Etde VIII などがあげられます(譜例1)。 ここでは、冒頭をあげておりますが、リズムを取ってみていただけますでしょうか?
譜例1
赤線の部分は64分音符、青線の部分は32分音符
これを厳密に弾くのは、非常に難しいです。 ところが、MIDI でこれらを単純に入力すると、非常にきれいに響くのです・・・ ということは、この通り演奏をすることが大切だということを意味していますが、そんなことができるピアニストは・・・ 非常に限られていますが、実際に存在するのです。 この CD では、Fanny Davies が、ピアノ協奏曲を、ダヴィッド同盟舞踏曲、子供の情景を録音しています。 SP盤からの再生のため、録音状態は悪いのですが、きちんと弾き分けておられます。 私には、驚き以外の何物でもありません。
譜例2譜例2は、ピアノ協奏曲の第1楽章の例です。 ちょっと見ると簡単そうですよね。 実際、ゆっくり弾いていいのなら、この通りに弾くことは簡単です。 しかしちょっと待ってください。 スピードの指定は、二分音符で M.M. = 69 です すなわち、四分音符だと、M.M. = 138 です。 簡単だと思う人は手を上げて・・・ たぶん、かなりの方が手をあげると思います。 良く見てください。 スタカートとスラーの指示がついています。 このスピードで、この指定をきちんと守れる人は手を上げて・・・ ほぅら。 ほとんどの方が守れていません。 リヒテルも、アルゲリッチも、バックハウスも・・・・ 私の手元には、20種類を越える LP/CD がありますが、この部分でさえも、楽譜通りに弾けている方は、片手でも余る程です。 (念のために申し添えますが、この部分が、ピアノ協奏曲のなかで、テクニカルに難しいところではありません。 もっと難しいところが、いくらでもあります。 これでも、比較的簡単なところで、聞き取りやすいところをあげたつもりです。) Fanny Davies は、きちんと弾けている好例です。 こういう好例を聴くと、Robert の偏執狂と言いたいほどの指定が、Clara が言うように、必然的な、ちゃんとした意味を持つことがよくわかります。 今回は、複雑なリズムについては、取り上げませんでしたが、それについては、お勧めの曲・Intermezzi Op. 4・その1 (10 月半ば過ぎ公開予定: なんと MIDI ファイル付き)をご覧ください。
楽譜をきちんと弾きこなした演奏を聴くこと・・・ それが、Robert のピアノ曲の良さを認識する最短コースなのだと、私は思います。 しかし、そのような演奏は、非常に希有であるのが、現状のようです・・・ (T_T)
最後になりましたが、Pupils of Clara Schumann を教えていただいた、伊藤さんに感謝いたします。