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(99/5/29 改訂) |
経歴などは、ご本人のホームページでどうぞ。
私は、1998 年の春から、子供をつれて、音楽会にいくように時間を作っています。 クラシック音楽の楽しみを覚えさせるには、音楽会に連れていくのが何よりだろうと思ってのことです。
小学1年生を連れていくのに適当な音楽会は、そう多くはありません。 まず、曲目が子供がある程度知っていないとダメですし、子供が生きやすい雰囲気のあるコンサート(○×ファミリーコンサート)でないと、回りに迷惑をかけることもありそうです。 1998/10/31 に開かれた、トヨタ・コミュニティ・コンサートは、そういった数少ないコンサートのひとつでした。 曲目は、お遊びコーナーと惑星、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲でした。 この時のヴァイオリンのソリストが、梅津美葉さんでした。 この時の演奏会については、ジュラシック・ページ☆仙台ニューフィルに記載があります。
子供を連れていくのが目的なので、私のほうは、子供が変なことをしないかと気が気ではないので、聴きかたとしては、最悪のコンディションです。 メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が始まったときも、最初は、やたらヴァイオリンが頑張って弾いているなぁ・・・ぐらいしか感じませんでした。 梅津美葉さんのヴァイオリン奏法は、とにかく基本に忠実なようにみえました。 アップボウ・ダウンボウのタイミングを、曲想によってしっかり定めているのが、見ていてわかりましたので、それだけで好感を持ってしまいました。 会場の宮城県民会館は、良い音響効果が得られない会場(地方の多目的ホールに良くある会場だと思ってください)なのですが、それでも梅津さんは一生懸命に楽器を響かせようと必死の演奏でした。 それゆえか、ときおり、楽器が悲鳴をあげそうになっていましたが、それすらも、好感を持って聞き入っておりました。 休憩時に、CD の即売会とサイン会があり、娘の意見で、CD を買っていくことにしました。 「みさとちゃんへ」と名前を入れてもらって、娘はご満悦でした。(右上を参照) 私は、まだ、この時点では、梅津さんの演奏のすごさに気がついていなかったのでした。
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家に帰ってきて、娘は買ってもらった CD を得意になって、自室で聴き始めました。 私は、娘がクラシック音楽にはまっていくのをみて、ご満悦といったところだったのですが、エルガーの「愛の挨拶」の演奏を聴いて、わたしのほうが、驚いてしまいました。 演奏会で聴いた、しっかりと一本芯の通った演奏に、柔らかいふっくらした音色がまとわりついて、とてもいい感じなのです。 娘の部屋の Audio 装置で聴くより、メインシステムで聴きたくなったので、娘から CD を無理やり借りて(取り返して)、エルガーの「愛の挨拶」を、いろいろな演奏家と聴き比べました。 この CD の演奏は、私の愛聴盤だった、チー・ユンより、一段上をいく演奏であるように感じました。 「美葉ちゃんのほうが、チー・ユンより、うまいんじゃないか?」と自問自答するがごとく、女房に問いかけました。 女房はヴァイオリンを弾けるので、ヴァイオリンに関しては、私より、はるかに口うるさいのです。 女房いわく「どう聴いても、美葉ちゃんのほうがうまいみたいねぇ」と。
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さっそく翌日、もう一枚の CD を仙台レコードライブラリに買いに走りました。 舞曲集ということなのか、あまり聴いたことがない曲が多く、私にはうまく論評できないのですが、美しきロスマリンには、満足しました。
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そして、これが最新作の録音です。 ソナタの録音は、これが初めてになります。 美葉さんのヴァイオリンは、それまでの小品同様に、魅力的なヴァイオリンの音色が、美しく響いています。 それだけでも、この CD は『買い』でしょう。 美葉さんのヴァイオリンが一音一音の表情を大切にしながらの素晴らしい演奏で、好感がもてます。 例えば、同じ音程が続くモチーフ(スプリングソナタの第一楽章)では、それらの音に強弱や響かせ方に工夫があって、聴き手の感性に確実に、音楽の表情を伝えてくれます。 もうひとつ、うれしかったのは、それぞれの作曲家の特性や、時代背景にそった解釈が聴き取れることです。 フォーレの第一楽章やブラームスの第二楽章の冒頭を聴いてみてください。 音楽の喜びにあふれた、幸せなひとときを送れるでしょう。 お勧めです。
さらに上を望むのであれば、美葉さんの美点である、表現の細やかさ、たおやかさを、ピアノがうまく支えられると、もっとよいのではないかと思います。 例として挙げれば、同音の繰り返しでのモチーフで、強弱やキータッチをかえるといった工夫をピアノに求めたくなります。 一音一音をゆるぎなく表現していくのが、美葉さんの美点だと、私が思っているからです。 例えば、ブラームスのソナタの第一楽章の冒頭のピアノ独奏部で、そのような改善の余地を感じることがあります。 しかしながら、このピアニストの美点は、そのような細部にこだわらないダイナミックさ、思い切りの良さにあるともいえ、私の感じている若干の不満は、無いものねだりなのかも知れません。
スプリングソナタなら、シェリング(Vn)ヘブラー(Pf)やグリューミオ(Vn)ハスキル(Pf)あたりが、私の愛聴盤ですが、ヴァイオリンの演奏の出来自体は、これらと比較しても、全くひけをとらないほどの優れた演奏です。 恐ろしいほど生真面目に(もちろん褒め言葉です)真面目にボウイングを考えて演奏しているであろう梅津美葉さんが目に浮かぶような演奏で、非常に好感をもちました。
私の個人的な希望としては、イングリッド・ヘブラー、ピリス、ノーマン・シェルター、オピッツといった演奏家との競演を聴いてみたいものです。 とにかく今は、偶然知ることができた、この輝ける若いヴァイオリニストに、とても期待しています。