Liederkreis, Op. 24 (後編) (98/7/4 記)
 

5. Schne Wiege meiner Leiden(私の悲しみの美しいゆりかご)

Schne Wiege meiner Leiden,
Schnes Grabmal meiner Ruh',
Schone Stadt, wir mussen scheiden, -
Lebe wohl! ruf' ich dir zu.
僕の苦悩の美しいゆりかごよ。 僕の思いの美しい墓標よ。 美しい街よ。 さようなら。 そう言うしか今の僕にはない。
Lebe wohl, du heil'ge Schwelle,
Wo da wandelt Liebchen traut;
Lebe wohl! du heil'ge Stelle,
Wo ich sie zuerst geschaut.
あの人がいつも出入りした、(僕にとって)聖なる入口よ。 さようなら。 あの人をのぞみ、見ていた、(僕にとって)聖なる場所よ。 さようなら。
Hatt' ich dich doch nie gesehen,
Schne Herzensknigin!
Nimmer war' es dann geschehen,
Da ich jetzt so elend bin.
美しき我が心の女王である、あの人に会ったりしなければ、 こんな惨めな気持ちになるなどということは、決してなかったのだ。
Nie wollt' ich dein Herze rhren,
Liebe hab' ich nie erfleht; Nur ein stilles Leben fhren
Wollt'ich, wo dein Odem weht.
僕は、あなたの心を動かそうとしたり、あなたからの求愛を望みはしなかった。 ただあなたの姿が見えるところで、暮らしたかっただけだ。
Doch du drangst mich selbst von hinnen,
Bittre Worte spricht dein Mund;
Wahnsinn wuhlt in meinen Sinnen,
Und mein Herz ist krank und wund.
それなのに、あなたは私を追い出すのだ。 あなたの口から、ひどい言葉をあびせられ、僕の精神はかきみだされ、そして、僕の心は病んで傷ついた。
Und die Glieder matt und trage
Schlepp' ich fort am Wanderstab,
Bis mein mudes Haupt ich lege
Ferne in ein kuhles Grab.
つえにすがって、疲れきった身体をひきずって私は歩む。 私の疲れきった身も心も、冷たい墓のなかに、横たえるまで。
Schne Wiege meiner Leiden,
Schnes Grabmal meiner Ruh',
Schne Stadt, wir mussen scheiden, -
Lebe wohl! ruf' ich dir zu.
(ここより、リフレイン)
僕の苦悩の美しいゆりかごよ。 僕の思いの美しい墓標よ。 美しい街よ。 さようなら。 そう言うしか今の僕にはない。

この曲では、Robert は、自分の意に沿うように、詩の一部を変えて、繰り返しをおいています。 軽快なリズム、指定の速度(bewegt, 動きのある)、そして美しいメロディと、この詩の暗い内容とは、全く合致しないようにみえます。 しかしながら、この不一致は、曲の終末部でうまく解消されるのです。 終末部の最後の繰り返し(リフレイン)で、速度を Adagio に落とすこと、全編を通じて繰り返される"Lebe wohl!(さようなら)"のことば、さらに、このリーダークライスを終えてしまうのではないかと思えるほど長いピアノ伴奏の後奏。 そのいずれもが、別れさせられた男が、もういちど振り返り、一瞬のうちに自分が体験した憤懣やるかたない気持ちをまとめて、去っていく様子をうまく描写しています。

6. Warte, warte, wieder Schiffmann(待て、荒々しい船乗りよ)

Warte, warte, wilder Schiffmann,
Gleich folg' ich zum Hafen dir; (Gleich, Gleich)
Von zwei Jungfraun nehm' ich Abschied,
Von Europa und von ihr.
待ってくれ、待ってくれ、勇ましい船乗りさん。 僕も君について今すぐ港まで行くのだ。
2人のお嬢さんとおさらばするんだ。 オイローパ(*1)とあの娘と。
Blutquell, rinn' aus meinen Augen,
Blutquell, brich aus meinem Leib,
Das ich mit dem heisen Blute
Meine Schmerzen niederschreib'.
血よ、僕の目から湧き出でよ。 血よ、僕の体かれ湧き出でよ。
熱く燃えたぎる血潮で、僕の苦しみが書き綴れるように。
Ei, mein Lieb, warum just heute
Schaudert's dich, mein Blut zu sehn?
Sahst mich bleich und herzeblutend
lange Jahre vor dir stehn! (oh!)
おや、恋人よ。 いまさら、どうして僕の血をみて、おびえたりするんだ。
青ざめて、血まみれの心臓で、立ちつくす僕の姿なんか、長いこと、見ていたじゃないか。
Kennst du noch das alte Liedchen
Von der Schlang' im Paradies,
Die durch schlimme Apfelgabe
Unsern Ahn ins Elend sties.
君はまだあの昔話を覚えているかい。 邪悪なリンゴの贈り物で誘って、我々の祖先を不幸に突き落とした、あのエデンの園の蛇のことを。
Alles Unheil brachten pfel!
Eva bracht' damit den Tod,
Eris brachte Trojas Flammen,
Eu brachst'st beides, Flamm' und Tod.
すべての災いはリンゴからおこった。 エバはそのために死し、エリスはトロイの戦いをもたらした。 君はそのふたつとももたらしたね。 僕を焼いて、そして殺した。
*1 ギリシア神話のジュピターの愛人のこと。 ジュピターと共に遍歴した土地が今のヨーロッパだという。

この曲だけは、ハイネの原詩のもつアイロニーをそのまま曲に表したようです。 規則的に拍子を打ち、音階を駆け上がる伴奏は、原詩のもつ鋭い皮肉をそのまま表しているようです。 "Gleich" の繰り返しと "oh!" (いずれも括弧で、赤で記載)は、原詩にはなく、Robert が付け加えたものです。 これらの追加によって、人の心を刺すような憤慨、苦しみと怒りが、先に述べた伴奏と相まって、絶望の爆発の表現になっていると感じました。

7. Berg's und Burgen Schau'n herunter(山と城がみおろしている)

Berg' und Burger schaun herunter
In den spiegelhellen Rhein,
Und mein Schiffchen segelt munter,
Rings umglnzt von Sonnenschein.
山や城が鏡のようにすんだラインを見おろしている。 明るい日の光をあびながら、帆をかけた僕の船はゆく。
Ruhig seh' ich zu dem Spiele
Goldner Wellen, kraus bewegt;
Still erwachen die Gefhle,
Die ich tief im Busen hegt'.
金色にかがやく波をじっとみていると、胸の奥底に押さえてきた僕の思いが、ひそかに目覚めてくる。
Freundlich grend und verheiend
Lockt hinab des Stromes Pracht;
Doch ich kenn' ihn, oben gleiend,
Birgt sein Innres Tod und Nacht.
優しく微笑み、幸せにあふれて、かがやく波は、僕を奥底へといざなう。
いやいや、僕はもう知っている。 うわべはかがやいていても、奥底には闇と死が潜んでいるのを。
Oben Lust, im Busen Tcken,
Strom, du bist der Liebsten Bild! Die kann auch so freundlich nicken,
Lchelt auch so fromm und mild.
うわべの甘い顔、胸の中のたくらみ。 波よ、おまえはあの恋人にそっくりだ。
あの娘も親しげにうなずいたり、やさしく微笑んだりした。

前曲とはうってかわって、曲はおちついた表情をみせる。 失恋がの時間の経過と共に、思い出に変わっていく様子に似ているように、私は思ってしまいます。 多感な青年だったころの失恋の苦い思い出は、何年たっても色あせることなく、そして相手への憎しみもわすれて、楽しかった時の思いだけが残っているのを、この曲は思い出させます。 ほとんど経験告白ですね。(誰の? ^^)

8. Anfangs wollt ich fast verzagen(始めから望みもなく)

Angfangs wollt' ich fast verzagen,
Und ich glaubt', ich trug' es nie;
Und ich hab' es doch getragen -
Aber fragt mich nur nicht, wie? (nicht, wie?)
始めは、本当に生きるのもいやになり、もうだめだと思ったものだった。
それでもなんとか耐えてきた。 どうやって? とは聞かないでくれ。

この詩は、もともと、ハイネが自分のきゅうくつなエナメル靴を皮肉った詩で、上記のような訳は誤解に基づいているようです(フィッシャーディスカウ著、『シューマンの歌曲をたどって』による)。 Robert を始めとして、この詩に歌をつけた作曲家達は、諦念を主題とした詩と考えているようです。

9. Mit Myrten und Rosen(ミルテとばらをもって)

Mit Myrten und Rosen, lieblich und hold,
mit duft'gen Zypressen und Flittergold,
mocht' ich zieren dies Buch wie 'nen Totenschrein, und sargen meine Lieder hinein.
やさしく愛らしいミルテやバラの花で、香り高い糸杉や金箔で、僕はこの本を棺のように飾りつけよう。 そして、僕の歌をその中ににおさめたい。
O knnt' ich die Liebe sargen hinzu!
Auf dem Grabe der Liebe wachst Blumlein der Ruh',
Da bluht es hervor, da pfluckt man es ab, -
Doch mir bluht's nur, wenn ich selber im Grab.
ああ、この恋も一緒に葬ることができたら! 恋の墓には小さな慰めの花が育ち、花が咲いたら、みんながそれを摘むだろう。
いや、僕のためにその花が咲くのは、他ならぬ僕が墓にはいった時だけだ。
Hier sind nur die Lieder, die einst so wild,
Wie ein Lavastrom, der dem tna entquillt,
Hervorgesturtzt aus dem tiefsten Gemut,
Und rings viel blitzende Funken verspruht!
ここにある歌は、その昔、エトナ山から吹き出でた溶岩の流れのごとく荒々しく、胸の奥底から吹き出して、火花をまき散らしたものだ。
Nun liegen sie stumm und totengleich,
Nun starren sie kalt und nebelbleich,
Doch aufs neu die alte Glut sie belebt,
Wenn der Liebe Geist einst uber sie schwebt.
今となっては、死んだように横たわり、霧のように冷たく、色あせている。
しかしながら、愛の亡霊がその上をただよえば、消えた灼熱の思いがよみがえるだろう。
Und es wird mir im Herzen viel Ahnung laut:
der Liebe Geist einst uber sie taut;
einst kommt dies Buch in deine Hand,
du ses Lieb im fernen Land.
そして、私の心の中に、いろいろな予感がときめくことになろう。 いつかは、愛の精霊が私の思い出の恋をとかし、いつかは、この歌の棺をおまえが手に取るだろう。 遠い国にすむ、私の(かつての)恋人よ。
Dann lost sich des Liedes Zauberbann,
Die blasen Buchstaben schaun dich an,
Sie schauen dir flehend ins schne Aug',
Und flustern mit Wehmut und Liebeshauch.
その時、呪縛が歌から解き放たれ、色あせた文字がおまえの目に入るだろう。 それは、思いをこめて、おまえの美しい瞳に見入り、そして悲しみと愛の吐息をささやくだろう。

成就しなかった恋をおさめる終曲です。 ピアノ伴奏の序奏は、曲中で何度かあらわれて、詩に書かれた恋の情熱が既に過去のことで、燃尽きた燃えさしのような状況を、うまく表現して、曲をまとめあげているように思います。 ピアノの後奏では、それまでになかったモティーフが出て、Liederkreis Op. 24 全体をまとめあげます。 

最後になりましたが、ピアノ曲のごとく、演奏者にとっての難所の例を、最終曲(第9曲)から譜例に示します。 ピアノも歌い手も、リズムをとるのが大変だろうと思われる場所です。 合わせにくいリズムではありますが、きれいに響くことは請け合いです。 こういうところが、私には、いかにも Robert らしく感じます。

  譜例
Liederkreis Op. 24 (7K)

2小節目の歌の出だしの部分は、歌は8分音符、ピアノは3連符。
その次の小節の2拍目も同様。 3・4拍目では、よりいっそう合わせにくいことに留意。

さて、おすすめの演奏ですが・・・ 数ある演奏の中で、私のお気に入りは、Schumann 歌曲大全集盤の Dietrich Fisher-Disckau / Christoph Eschenbach の演奏です。 この演奏ほど、きめ細かな配慮がなされた演奏を、私は他に知りません。 しいて難点をあげれば、演奏者の声と音域が合わないため、音程を下げて演奏していることをあげなければなりません。 現役陣の中では、Mattias Goerne / Vladimir Ashkenazy の演奏を推薦したいところです。 質・量共に豊かな声量を生かしながら、陰影を失わない演奏で、感心します。 これも、オリジナルの音程ではありません。 オリジナルの音程で演奏された中では、Peter Schreier の演奏を推したいと思います。 1972/4 年(Norman Shetler 伴奏)、1988 年(Christoph Eschenbach 伴奏)のふたつが手元にあります。 これらのうち、前者をお勧めしますが、日本では現在、廃盤です。 Peter Schreier の歌い自体は、後者のほうが良いようにも感じるのですが、指揮との二足のわらじを履いた Eschenbach の衰えは著しく、Fischer-Diskau との録音のような冴えは全くなく、お勧めできません。

みなさまのおすすめの演奏やご意見がございましたら、
n'Guin までメールをください。  お待ちしております。

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原詩の日本語訳は、私 n'Guin が気のおもむくままに、訳したものなので、誤りがたくさんあることだろうと思います。 誤りを見つけたら、あははははっ! と笑って、私に教えてくださいな。