Toccata, Op. 7 & Allegro, Op. 8 | (99/1/11 記) |
元来、トッカータとは、リズム感にあふれ、即興的性格を持つ小曲のことです。 Robert の Toccata Op. 7 もまた、その例外ではありませんが、かなりしっかりした構成感にあふれ、むしろエチュードのような小品といったほうが的確かもしれません。 作曲されたのは 1829 - 32 年ごろで、パガニーニのヴィルトオーゾ的側面に、大きな興味を持っていたころです。
Allegro Op. 8 もまた、同時期の 1831 年に作曲されました。 この曲は、非定型的ですが、古典的なソナタ形式で書かれていることから、Robert は、当初、この曲を大きなソナタの一つの楽章にする意図で書かれたとも言われています。 残念ながら、息が続かなかったようですけれど・・・
これらの曲より、前に書かれているのは、ABEGG Variationen (Op. 1) と Papillons (Op. 2) ぐらいで、私 n'Guin が初期の隠れた傑作と思っている 6 Intermezzi (Op. 4) が 1832 年に作曲されています。 初期の有名な傑作 Carnaval Op. 9 は、1833 - 5 年に書かれています。 この意味では、Toccata Op. 7 と Allegro Op. 8 とは、Robert の才能が花開く直前のつぼみのような作品といえるかもしれません。
しかしながら、初期の Robert らしい特徴は、これらの曲でも健在です。 譜例1は、Toccata Op. 7 の最初の部分です。
譜例1
まず最初に気がつくのは、赤丸で示した低音の進行です。 ずっと、シンコペーテッドなリズムです。 赤丸以外の音が、すべて 16 分音符のきざみで構成されています。 通奏低音というわけではありませんが、低音のシンコペーテッドなリズムが生かされた演奏が好ましいと思われます。 頭の中で考えるのは簡単ですが、これだけのきざみをこなしながら、左手の小指・薬指で、赤丸のリズムを支えながら弾いていくのは、けっこう骨が折れます。 しかし、それが難しそうには聞こえないのが、Robert らしいですね。 またこのシンコペテッドなリズム構成と 16 分音符のきざみとの混成も Robert らしいアイディアです。
同様なリズム進行は、最初の2小節にも見られます。 青ワク3つで分けたように、グループわけして弾かれることが多いようですが、基本構造は、赤丸のシンコペーテッドなリズムと同じです。
Chopin Etude を初めて弾くときには、「音の粒をそろえて弾くように」と注意されることでしょう。 さて、Schumann の Etude ともいえる Toccata Op. 7 ではどうでしょうか。 確かに音の粒をそろえて弾くことは大切なのですが、それに加えて、上に述べたようなリズム感覚がわかるように弾いたほうが、より Schumann らしいように感じます。 また、どこがメロディラインなのかも明確に弾く必要があるように感じてしまいます。 この辺りは、好みの問題だとおっしゃる方もいらっしゃるかと思いますが、私がこの曲を聴く際にはゆずれないところです。 これらの違いがわかるように実験的な MIDI ファイルを作成してみました。
Toccata Op. 7 の冒頭から、最初のテーマが終結するところまでです。 冒頭の和音の部分(譜例1で、青線で囲っている部分)では、テンポなどを若干いじっていますが、それ以外では、テンポは一定になっています。 上段のほうは、音の粒を完全にそろえたものです。 下段の方は、上段に、下記のポイントを機械的に調整したものです。
さて、お勧めの LP / CD ですが、 Toccata Op. 7 のほうは、ホロヴィッツ、リヒテル、エンゲル、デムスなどの録音が手元にあります。 これらの中では、イヴ・ナットの演奏がベストです。 先に述べた Schumann 的ピアニズムの醍醐味を全面に押し出しされた演奏で、飛び抜けた一級品です。 この録音の欠点は録音が古いことぐらいでしょう。 一方、Allegro Op. 8 のほうは、エンゲル、デムス、伊藤恵の3枚しか、手持ちがありません。 聴き比べというほどの枚数ではないので、ここでは、素直に、入手しやすく、最新の録音の伊藤恵(FOCD3401)をお勧めしておきます。 カップリングは、Op. 6 のダヴィッド同盟円舞曲です。